元首位打者の正田耕三氏は今、高校野球指導とアマゾン勤務の二刀流 そのワケは?
元プロ野球広島カープの内野手として活躍し、2月に学生野球資格回復が認められた正田耕三氏(59)が3月、京都成章高校野球部の指導者として新たなスタートを切った。今度は球児とともに甲子園を目指す立場となったが、実は二足のわらじを履くサラリーマンでもある。
勤務先はインターネット通販サイトの最大手「Amazon」の日本法人アマゾンジャパン合同会社。
正田氏はロボットを導入した巨大な物流施設の中で、テレビモニターを通して出る指示に従い、棚から下ろした商品をカートに乗せる仕事をしている。
「スピードが大事ですからね」
そう言って、現役時代を思わせる素早い動作で作業をこなす。在庫状況も頭の中で整理できるようになってきた。
商品管理力はスピードにも直結する。仕事を覚え会社の戦力になっていると思うと、充足感が満ちてくる。
現役時代は俊足、好守、好打の二塁手として首位打者2度、盗塁王1度のタイトルを獲得。広島の中心選手として2度のリーグ優勝に貢献した。
引退後は国内外のプロ球団でコーチを務めた後、今年2月に学生指導の資格を取得。その後、京都成章高校からアドバイザーコーチとして声がかり、3月13日から指導を始めている。
「アマチュア指導には関心があったんで、ありがたくお受けしました。甲子園を目指して一生懸命がんばっている選手の手助けができたらと思う」
韓国プロ野球リーグのKIAタイガースを退団した一昨年の冬が“転機”のきっかけになったという。
「社会人(新日鉄広畑)のときは建築課にいましたが、練習に明け暮れていたんでね。野球から離れたところで一度、働いてみたかったんです」
そんな理由で会社勤めの道を選び、以前から興味があったアマゾンで派遣社員として働くようになった。昨年9月に韓国の別の球団から誘いがあったが断り、この仕事を続けている。
今回、アマ指導という夢の実現に成功したが、今のところ“サラリーマン”をやめるつもりはない。週に4日アマゾンへ行き、3日学校のグラウンドへ。今後はそんなペースになるようだ。
「休みなんかいりません。日々勉強ですよ。コロナ禍で世のなか大変だし、仕事ができるだけでありがたい。これはプロの時代には感じなかったこと。今は年齢の差に関係なく、多くの人と触れ合えて友達もできるし、いろんなことを学べるのがうれしい」
社会勉強のつもりで会社へ行き、「選手が教科書」という学校でナインにアドバイスを送る。かつて体験したことのない新鮮な生活に期待は膨らむ。
能力や特長に違いのある選手を、どう指導し、上達させるか。力の劣った子もいれば、おとなしい子もいる。そこから逆に学べることがあるという。
正田氏は「気づくのは選手。気づかせるのがコーチ」ともいう。一流のプロも高校球児も、教えの原点は同じかもしれない。
学校に野球部専用のグラウンドはない。限られた時間の中で、いかに効率よく内容の濃い練習ができるか。大事なのは意味のある練習だ。
「この練習が何のために必要なのか。それを選手に理解させることが大切。やらされる練習では身につかない」
自身の現役時代を振り返ると、問答無用のスパルタ式で育てられた。だが、「今は時代が違う」と言い切る。
体力があり余っているわけでもない。しかし、2つの仕事を両立し、忙しい毎日を送る正田氏の目は太陽の光にも負けず、ランランと輝いている。
~~~~~~~~正田耕三(しょうだ・こうぞう)1962年1月2日、和歌山市出身。市和歌山商から新日鉄広畑を経て84年オフのドラフトで内野手として広島に2位入団。タイトルを3度(首位打者2回、盗塁王1回)獲得するなど好守に渡り活躍した。引退後は広島、近鉄、オリックス、阪神で中村紀、鳥谷、赤星、T-岡田らを指導。韓国リーグでもコーチを務めた。