「東京ヤクルトスワローズ１－７阪神タイガース」（３日、神宮球場）

　大偉業は目前ではかなく散った。「残念です」。試合後、阪神・伊藤将は悔しがった。それでも「Ｍ１５」へ導いた圧巻の９０球。「しっかり九回まで投げられてよかった」。十分すぎる仕事をやってのけた。

　特に直球がさえ、六回までわずか２安打。七回には無死二塁のヤマ場を迎えたが、山田を右飛。この試合前まで対戦打率・４６２と苦手の村上も内角低めに投げきり、見逃し三振に。「逃げたら痛い目に遭いそうだったので攻めた結果、三振を取れて良かった」。最後はサンタナを遊ゴロで切り抜けた。

　八回まで７８球を投げ無失点。球団投手では２１年１０月２日・中日戦の高橋以来となる“マダックス”（１００球未満での完封）は目前だった。しかし、九回１死で代打・赤羽への３球目は左翼スタンドへ…。夢ついえたが、９回５安打１失点。熱投にグラブをたたき、坂本とグータッチし「（坂本）誠志郎さんのリードがよかった」と感謝した。

　父・正宏さん（５３）はテレビの前で見守った。大偉業とはならなかったが「あれが将司だから。いつもびしっと決められない…」と笑った。それでも「いつもヒヤヒヤだけど、きょうは楽に見られました」と息子の勇姿をたたえた。

　千葉県北東部の山武郡横芝光町で「伊藤牛乳店」を経営しているため、なかなか現地観戦はできないが、いつも登板前には「頑張ってね」とＬＩＮＥ。「返ってきても『ＯＫ』のスタンプだけなんですけど」と正宏さん。それでも「うれしい限りです」と活躍する姿が何よりも“親孝行”になっている。

　完封とはならずも、今季リーグトップタイの３完投で、チームトップタイの９勝目。２１年のルーキーイヤー以来となる１０勝に王手をかけた。「ここからもどんどん勝って、アレをできるように頑張ります」。ウイニングボールはフェンス越しのファンにプレゼント。最後までマイペースな“らしさ”全開でファンを沸かせた。