【辰吉父子ガチンコ対談・後編】
2014年10月10日
‐やはり父は入る。
寿「ビデオをめっちゃ見てます。しゃべってる父ちゃんじゃなくて…。パッキャオは普通に好きですね。めちゃくちゃな感じが」
‐父の試合で一番好きなのは。
寿「サラゴサ戦。2回やって2回とも、父ちゃんが負けてますけど、サラゴサが好きなんです」
‐打ち合いは小さいころから好き。
寿「好きですね。基本、みんな好きですけど、レナードも。その中でもガツガツ行くタイプが好き。僕はそっち派ですね」
‐父は思春期、けんかでならした(※1)が寿以輝は?
寿「ほどほどに」
‐小さいころから負けん気は強かった。
丈一郎(以下、丈)「最初はいじめられっ子。幼稚園のころはいじめられてた」
‐父と一緒やね。
寿「背も小さくて、かわいらしい顔してたんですよ(笑)」
丈「入園式とか小さい子と一緒に入園するだけやん。それで泣いとった。親が離れてしまうとあかんたれ」
寿「いじめられてた記憶はあります。泣いてたりして。幼稚園の年中か年長になったらなくなりました。父ちゃんから『やり返して来い』と。向こうが来るからですけどね」
丈「それは口酸っぱく言っていた。絶対自分からはするな、と。幼稚園はひっかいたとかのレベル。見たら相手に青たんできてた。園児で青たんて。鼻血も出てたし」
寿「ボコボコいったったんで」
(父からは一発で仕留められなかったことを怒られたとか)
丈「いじめてるみたいになるやろ。一発でのばせや」
(血は争えず、そっくりな幼少期)
【8R】
‐性格も似ている。
丈「ある部分では似てるかも。自分の父ちゃん(※2)が、さぼるとか横着なことをするのをいやがった。それを見て育っているから。横着イコール二度手間という意識」
寿「僕もさぼられへん。負けず嫌いでむきになるところも似てるかな。ゲームとかでも勝つまでやめないという感じ」
‐何歳で世界王者に、など考えている?
寿「そういうのは全然考えていないんです。でも世界ベルトを巻く想像はしている。自分は絶対になると思っているので。いろんな王者と戦っているイメージトレをしている」
丈「日本は親子で世界王者ってないやろ。でも親とすればけがのないようにして欲しい。自分がけが多いから。似るっていうやん親子って。そこを恐れる。怖いね」
(世界王者より無事を祈る父。終盤戦へ)
【9R】
‐今の強化点は。
寿「スピードが欲しいですね。パンチの回転力が欲しい」
(寿以輝はジムで、パンチ力は10点満点の13か14。防御は1か2との評価らしい)
寿「もらっても倒れる気はしないので」
‐テストを控えた息子にエールを。
(2時間超の対談中、ここまで一度も目を合わせていない父子。夫人からお叱りが…)
【10R】
るみ夫人(以下、る)「寿以輝の顔見て1回くらい言うとき」
丈「何が聞きたいねん」
寿「何でもいいよ」
丈「まずはプロになってからやな。まずはテスト頑張り」
る「普通やん(ため息)」
丈「土台が大事。根性が大事。そこがないと何も始まらん。遊びもボクシングもプロもやりたい、なりたいって人間、器用やないて。そんなんもあるから今、寿以輝に肩入れはしていない。ほんまにやりたいなら構えろって。わしはそういう人間。自分がこうと決めたらやる。やらんと『辰吉』じゃないし。辰吉は強いんよ」
(再び始まった猛攻に寿以輝カウンター)
【11R】
‐プロになるにあたり父に宣言を。
寿「お父ちゃん、安心して。大丈夫。けがもせんと、男前な顔を大事にしますよ」
丈「そんなことは心配してない。唯一安心しているのは辰吉の血が流れていることや」
‐いつか父子でリングに?
丈「まずないやろ。いくつまでやらせるねん。つえ持ってリング上がったら反則やな」
(対談も最終ラウンド。ここから“萌える”18歳が父をKO)
【12R】
‐寿以輝はAKB好き。今の推しメンは。
寿「今は川栄李奈さん。(大島)優子さんでしたけど卒業したので。握手会に行ったりしてますね」
丈「情けないやろ。はあ…。昭和の人間には分からんわ。何でおなごのけつ追っかけなあかんねん」
‐世界王者なら会えるかも。
丈「違う方向行ってるわ」
寿「モチベーションは大事やで」
‐「丈一郎」の名は父・粂二さんが漫画「あしたのジョー」から名付けた。昭和の「あしたのジョー」と平成の「はじめの一歩」。時代も変わってきた。
寿「あしたのジョーは好き。お父ちゃんのジョーにつながってるのも知ってます」
(父のビデオを見ては家で練習。“しゃべり”の物まねを披露)
寿「『ジョーはチャンピオンなられへんかったから、僕がなりましょう!』」
(父以外、大爆笑)
寿「矢吹ジョーがなられへんかったから、僕がなるっていう意味ですね。デビュー前くらいの映像ですかね」
る「最後に調子に乗って言っとき」
(父に向かいキッパリと!)
寿「俺は俺です」
◇ ◇
※1 幼年期のいじめは「すごかった。親が泣くほど」と辰吉。元来の腕っ節でいじめを乗り越えると小学生から中学卒業までケンカは負け知らず。
※2 生後間もなく両親が離婚した辰吉は父・粂二さん(99年逝去、享年52)の男手一つで育てられ、ボクシング教育を施された。父子の絆は深く、WBC世界バンタム級にこだわり続けたのも父の影響。
◇ ◇
▽辰吉丈一郎(たつよし・じょういちろう)1970年5月15日、岡山県倉敷市出身。中学を卒業し、大阪帝拳に入門。89年にプロデビューし、91年にWBC世界バンタム級王座に初挑戦し、TKO勝ち。当時国内最速の8戦目で世界を奪取した。92年、王座から陥落し93年に同級暫定王座に。94年12月、薬師寺保栄との王座統一戦に敗れた。97年に王座に返り咲いた。プロ通算28戦20勝(14KO)7敗1分け。身長164センチ、右ボクサーファイター。
▽辰吉寿以輝(たつよし・じゅいき)1996年8月3日、大阪府守口市生まれ。幼少期から丈一郎にボクシングを教わり、寺方小2年でプロを志した。好きな選手は辰吉丈一郎とマニー・パッキャオ(フィリピン)。家族は父、母、兄。兄・寿希也(じゅきや)さんともに、99年に亡くなった祖父・粂二(くめじ)さんが命名した。身長167センチ、右ボクサーファイター。
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