だから王将は売れる!大東隆之社長
2013年12月19日
◆例えば学生客の多い京都・出町店では30分の皿洗いで、食事がタダ。各地の店舗で、独自のサービスやメニューを展開しているのが強みだ。
‐社長の代表的な1日のスケジュールは?
「朝は5時半に起きる。そこから会社に来て玄関掃除とかして、9時になったら前日の成績をチェックする。クレーム対応とかもしてね。やっぱり朝から動かんといかん。昼からその日のこと考えても遅いわ」
‐本社なのに社員が少ないですね。
「何で高い給料もらってじっと会社におるの?ウチは基本的に、営業本部は誰もいてない。外に出て行くのは当たり前ちゃう?電話でワーワー言っててもしゃあない。現場に行かないでどうするの?」
◆社長の専用車はあるが、運転手はいない。移動の際は自らハンドルを握る。
‐よく店舗に顔を出されているようですが。
「いろんなところへ行って、改善改革するところがあればマネジャーに指示を出したりして。現場を見ながら、“三現主義”やな。『現場・現物・現実』。現場で現物を見て、現実はどうか考える」
‐やはり現場が第一なんですね。
「問題を共有せなあかんね。現場と意見が違ったときに、上からボンボン言うても解決しない。そのためには現場に出てないとわからんからね」
‐アポなしですか?
「アポがあったらあかんやろ。問題は、王将としての雰囲気というか、オーラがあるかないか。これではやってるかどうかわかる。うまいこといってる店は、王将としての活気があるよ。逆に、入ったときにしっくりこない店はあかん」
‐そもそも、「王将」という名の由来は?
「もともとチェーン展開する前に、予備で開いた店があって、そこの屋号がたまたま『王将』だったんです。それとやっぱり、『王』は王様で、『将』は戦う人。だから王将が一番ええやろと。攻めの姿勢やね」
‐なぜ中華料理?
「前の社長が中国の大連で終戦を迎えたわけやけど、そこで中華料理を、餃子を食してたわけでしょう。そこで餃子をメーンにしようと考えたんでしょうな」
◆CMの“餃子一日、100万個”は有名だが、現在は130万個を超えているが「聞こえがええから」とそのままだ。
‐会社が元気ですね。
「元気や言われてるけど、よそから比べたら安いですからね。いろんなこと考えて、(厨房が客から見える)オープンキッチンにしながら、品質の向上を考えて、それで初めて『安くてうまい』いうのが定着してきたんじゃないかと思うけどね。僕が社長になって10年ちょっとやけども、5年目ぐらいから上昇し始めたからね」
‐売り上げは年間500億円ぐらいとか。
「500億…、もっといってるんちゃうかな。大体1店舗で月に800万ぐらいやろな。5000万ぐらい売るところもある。豊中の大阪空港店、あそこは月に5000万以上売り上げる」
◆入社以来、さまざまなアイデアを出した。「35、6年前には飲食店のチラシなんてと笑われた」。新聞の折り込み、高校や大学の校門前での餃子無料券の配布も王将が始めたものという。
‐もともとはお義兄さまが始めた店ですよね。
「そうね。僕は若いころは自分の商売しとった。遊ぶための商売しとったよ。春と秋は、全部遊んでた。氷と炭を売ってたから。忙しいのは冬と夏だけやから、一番気候のええ時はヒマや。もうけた金で遊んでた。それで借金したらこらアカンと働いて返して…」
◆管理や教育の話となると、急に表情が引き締まり、“社長の顔”を見せる。
‐店長になるには、時間がかかりますか。
「このごろはサイクル早いからね。まあ10年かかる人もおるけど、大体は5‐6年で店長になる。一番若いと、24、5の店長がいてますね」
‐店長への教育は?
「店長には、研修制度がしっかりある。1年の間に、2カ月ぐらいは研修なんとちゃうか。いろんな研修をする。店長研修、チーフ研修、接客研修…。そこで“王将イズム”というか、やっぱり王将の風土、企業文化が叩き込まれるわね」
‐厳しいですね。
「よそのファミリーレストランなんて、バラバラなところ多いやん。大学出て3、4年で店長になって、店長いうたら在庫管理と接客だけ。中の者の方が古いんちゃうの。そしたら文句も言えんし、店長が店長然としておれんのちゃう?」
‐ちなみに社長は店長の経験も?
「何遍もあるよ。店長もやったし工場長もやったし、何もかもやった。店長は全部で20年ぐらいやったんちゃうか」
◆王将には「社員は家族と一緒」との経営理念がある。これまで200人以上の社員がフランチャイズ店として、独立を果たしたという。
‐各店の店長の名前も覚えているとか。
「だいたい覚えてるよ。成績がいい店の店長はしっかり表彰するし、店長の奥さんの誕生日には花を贈ったり、クリスマスには現金を贈ったり…。やっぱり『人』を大事にしないといけませんわ」
◆最近は中国に進出し、王将の中華料理を「里帰りさせた」。現在の悲願は、全都道府県の店舗空白区を埋めること。食は万里を超える‐CMのキャッチコピーはもうすぐ、現実になる。
◇ ◇
Q1 好きな食べ物
餃子は別として…、果物。
Q2 飼っているペット
犬と伝書鳩。あとは、ペットといえるのか否かはわからないけど、メダカと鈴虫。
Q3 最近の買い物
特にない。
Q4 占いは信じますか?
信じない。
Q5 宝物を教えて下さい
「餃子の王将」の社員ですね。
Q6 最近読んだ本
私が今まで心を動かされた人物に関する本。伝記とかですね。
Q7 いま一番ほしい物
若き体力ですなあ。
Q8 好きなスポーツ
ラグビー。
Q9 座右の銘
人を稼いで人を残す。
Q10 10年後は何をしていると思いますか?
今は、10年先を見つめるのではなく目先の1年に集中したい。
◇ ◇
大東隆行(おおひがし・たかゆき)1941年3月8日生まれ。大阪市出身。関西経理専門学校を中退後、薪炭・氷の販売業を経て、義兄の加藤朝雄氏(故人)が京都・四条大宮に創業した「餃子の王将」の第1号店に69年入店。95年に副社長、2000年に「王将フードサービス」の社長に就任。当時多額の負債を抱えていた同社を再建し、06年には大証1部に上場した。05年に中国大連市に海外1号店を出店。今月11日に発表した7月の既存店売上高は、前年同月比24・1%増で、07年8月以来、24カ月続けて前年実績を上回った。7月末時点の全店舗数は531店(直営346店、フランチャイズ185店)。
<取材を終えて>「店に元気ない」社長自ら手伝い
「店に元気がないわ。いらっしゃいませの声も小さいなあ」。約1時間の取材終了後、京都・山科の本社近くの店舗に行った。大東社長が餃子を焼く写真を撮るためだったが、店の様子にいきなり不満顔になり、「手際も悪い!」と前の客が残したままになっていた、テーブルの皿をさっさと片づけ始めた。
その皿を引くスピードのまぁ速いこと。ふと奥の方を見ると、我々の取材に付き添っていたはずの経営企画部・内田浩次副部長が抱えきれないほどの皿を手に、洗い場に向かっていた。
お昼のピークは過ぎていたが、まだ店は混雑。店員が一人休んでいることを知ると、社長は取材が終わっても餃子を焼いた。鉄板の前で額を汗まみれになる社長に、パートの女性は容赦なく「リャンガー追加」などと注文を告げていた…。
(大阪本社報道部次長・矢野彰)
毎週月曜日掲載
[追加訂正]
[全文訂正]
[写真説明]
現場主義‐。自ら厨房に立ち餃子を焼く王将フードサービス・大東隆行代表取締役社長=京都市・王将京都東インター店(撮影・飯室逸平)