レース後インタビューが印象的だった中井裕二の人を惹きつける魅力とは CBC賞フロムダスク騎乗でJRA重賞初制覇
夏競馬も気づけば、折り返し。外出もはばかられるほどの厳しい暑さのなか、競馬場へと向かう人馬には頭が下がる。今年の夏、中京でひときわ輝いたのがデビュー15年目で初めて重賞を制した中井裕二騎手(33)=栗東・フリー=だ。CBC賞で12番人気フロムダスクに騎乗し、36度目の重賞挑戦でタイトルをつかんだ。
人気通り、決して中心視されていたわけではない。テン乗りでの、なかば唐突に舞い込んだ勝利といってもいい。レース後のインタビューが印象的だった。抑えきれない歓喜…というよりも、地震で被害のあった熊本を気遣い、来場者に暑さへの注意を呼びかけた。その人柄が気になった。
インタビューの言葉にも重みがあった。「勝たせていただいた時は喜びでいっぱいですが、それ以外は辛く、しんどい日々も多い」。デビュー2年目の13年には自己最多のJRA37勝。一方で22年は3勝。23年6勝、24、25年も7勝にとどまった。
改めて「しんどい日々」について聞くと、しばらく考えて意外な言葉が返ってきた。「言いたくないですね。それも僕の中では宝物なので」。騎乗フォームの修正や筋力トレーニング、自分が正しいと思って取り組むことが、結果に結び付かない世界。「先輩方を見ていても、本当に努力されているんです。勝っている人には、勝っている人の苦労もある。僕だけが苦しいわけではないです」。競馬と正面から向き合う日々。単なる苦労話にはしたくない。勝負師としての気概もある。
調教を手伝うことの多い中内田師や先輩ジョッキーの和田竜(現・調教師)、他にも多くの厩舎スタッフに支えられ「本当に人に恵まれています、僕は」と言う。出会ってきた馬もそうだ。その1頭がローレルベローチェ。15年に出会ったサクラバクシンオー産駒で初コンビで勝利を挙げると、その後ダートから芝へと転向。オープンまで3連勝した。「しんどかった僕にカツを入れるパワフルな馬でした。苦しいことも忘れるぐらい、楽しい毎日でした」と懐かしそうに笑う。
翌16年のシルクロードSでも代名詞の逃げの競馬を貫いたが、残り100メートルのところで先頭を守り切れず、ダンスディレクターにかわされ2着に敗れた。「本当に本当に悔しかったです。頑張ってくれたあの子がくれたものを、どう生かせるか。それしか考えなかった」。その時の敗戦を思うと、今も語気に力が帯びる。
週末の華やかな競馬場の裏には、普段の地道な調教がある。むしろ大半を締める。早朝に起きて、仕事へ行きたくない日も「めちゃくちゃあります。そんなん人間ですもん」と笑う。それでも馬に乗ることが救いにもなる。「馬でストレスがたまって、馬で発散できる世界なんですよ、僕にとっては」。騎手を辞めようと思ったことはないのか、と聞くと「辞めるという考えをやめていました。やるだけっていう」と達観したような、吹っ切れた答えが返ってきた。
CBC賞を勝った実感が最初に湧いたのは、引き揚げてきた時だった。デビュー直後から世話になってきた森秀厩舎のスタッフが、満面の笑みで「よくやった」と待っていた。「そこまでフワフワしていたんですが、一気にブワッと実感できました」。もう一度、感情があふれたのはその日の夕方だった。他の予定があったが、それを断って実家へ帰ったという。
「お盆でしたし、おじいちゃんにお線香をあげたくて。一番応援してくれていたので」。祖父はもともと競馬好きだったわけではない。中井が騎手になってから熱心に競馬を見始めた。「僕だけしか見ていない、ぐらいの感じで」。ローレルベローチェの重賞惜敗も、その後のG1挑戦も見届けてくれた。「仏壇で報告できた時は、ほんまに泣きました。遅くなったんですけど」。一番応援していた祖父に、ようやく重賞初勝利を報告できた。
今後の目標を聞いても、大きなタイトルの名前は出なかった。「苦しい時に支えてくださった人や馬に、『いいジョッキーやと思っててん』と思ってもらえるような騎手、人間になりたいです」。インタビューで惹きつけられた人柄の輪郭が、少し分かった気がした。(デイリースポーツ・島田敬将)
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