立石正広の作法を聞いて

 【3月1日】

 ルーキー立石正広のフリー打撃を初めてじっくり見た。SGLの外野席、バックスクリーンやや右から眺めること15分。ラスト1本はグングン伸びて僕の目前の防球ネットまで達した。

 ネットが無ければ筆者直撃の1発だった。オーバーフェンスはバックスクリーン直撃を含めてざっと8~9本。そのたびに内野席を埋めたファンから拍手が注がれ、ラストスイングにはこの日一番の歓声があがった。

 外野フェンスとネットの間に挟まった「ホームランボール」を抜き取ってファーム施設へ引き揚げる立石を待った。基本的にリハビリ選手の日常取材はNGだから、こちらから話し掛けることはない。付き添いのトレーナーにそのボールを手渡すと、立石は「ありがとうございます」と会釈してグラウンドをあとにした。本人の胸は晴れ晴れとはいかないだろうけど、彼の恭しい佇まいを沖縄キャンプから見ているこちらは清清しい気持ちになる。

 心情的に温かく見守りたくなるのは非凡なポテンシャルはもちろんだが、聞こえてくる彼の人となり所以だ。伝え聞いたキャンプ中の一コマを書けば、例えば、宿舎の食事会場における所作である。監督、コーチのテーブルは広い会場の端っこに配列されていたそうだが、立石は食事を済ませると、必ずそこまで挨拶に立ち寄ってから部屋へ戻ったという。

 これを「当たり前のこと」などと書けば叱られるご時世だ。会社では上司より若者が、学校では先生より生徒が強い時代…世間の風潮に苦心惨憺する人もいるが、ぶっちゃけ個人的には興味がない。が、仮に阪神でそんな空気がまかり通ればちょっと気になる。なぜってここは特別な球団だから。

 特別にも色々あるが、例えばこの日のSGL。ファームの練習日にこれだけのファンがスタンドを埋める球団は「特別」以外の何ものでもない。

 この環境が仇になった者を目の当たりにしたことがある。だから、若い世代でリーダーとなるべき立石の人となりについて、首脳やスタッフから「彼はしっかりしている」と聞けば、節介焼きの筆者は安心するのだ。

 それはそうと、期間限定のキャンプならまだしも、日常これだけ歓声を浴びて練習する環境は、指導する側にとって「やりにくさ」はないのか。怒鳴りたくても怒鳴れなかったり…。ファーム監督の平田勝男に聞いてみた。

 「あのなぁ、風。俺は怖い人じゃないんだよ(笑)。でもな、もし『そんなに厳しく言って!』なんて(ファンから)言われても、それを気にしながらやることはないし、そういう意味でのやりにくさは全くないよ」

 「正す」為に鬼軍曹になった時代を知る。その頃に比べれば今は「仏の平田」か。でも、もし特別な環境に溺れる者がいれば…いや、野暮なことは聞かない。ちなみに平田もよく分かっているが、この環境に勘違いしかねないのは記者も同じ。礼儀や準備を怠れば取材対象者に非礼。自戒を込めて記すが、「正す」ことを恐れるのは後進に寄り添うことにならない。=敬称略=

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