こころ、ひとつに…
【12月26日】
デイリースポーツOBの恩人から電話があった。
「コーヒーいこか」
午後から大阪で取材が一件、昼間はちょうど空いていたので「ぜひ」…。 芦屋の珈琲スタンドで早口で話しながら、その恩人は僕にひと言。
「まだ遠慮があるわな。ズバッと書いたらええねん。もう一回、そういうライターを目指してみ」
80歳を超えて弁も足腰も達者なその人は元デイリーの編集局長。僕を阪神担当にした…いや、過去の内輪話はどうでもいい。退職した後もずっと気に掛けてくれて、今も年に二度ほど唐突に誘いがくる。デイリーの話、タイガースの話、当欄への提言…すべて直球だし、人に対する評価も本質しか言わない。「ええもんはええ。あかんもんはあかん」のスタンスだから、スカッとするし、胸にも刺さる。
実は一年前にも同じ珈琲スタンドでこの恩人から「原稿に遠慮がある」と言われ、今年はそれを意識しながらキーをたたいてきたつもりだ。でも「まだあかん」らしい。来年はもっともっと心して…と誓う年の瀬だ。
このトシになると面と向かってダメ出しされることはほぼなくなる。自分の「あかん」ところに鈍感になりがちだし、また、自ら立ち止まって直そうともしない。こういう類の話を聞いても「俺は直すとこなんかない」と偉ぶる中高年も見るし、そうなれば末期。新しい年へ向け、他山の石にすべし。
さて、当欄も今回が仕事納め。25年の阪神タイガースを追いかけ、ときに節介も綴ってきたけれど、これだけは認めなければならない。
阪神タイガースは強くなった。
では、なぜ、強くなったのか。
藤川球児が言うように「強い選手たちのおかげ」。もちろんそうなんだけど、一方で僕が取材して感じるのはフロントの「内省力」である。老舗組織に横たわりがちな古い体質の浄化には強いリーダーシップと、各々の気付きが必須だが、いまのタイガースにはその両辺が備わっている。もちろん完璧なんて無理だろう。が、タイガースに関わる全部門、全世代が高みを目指す姿を随所に見かける。ひとつの方向を向くため自らを省みる向上心の結集が「黄金期」の源ではないか。
先のドラフトで立石正広のクジ運に恵まれたのもオールタイガースの「野球」に対する真摯な取り組みのご褒美…そんな必然を感じるのだ。
営業、総務、全ての部門それぞれがチームプレーを尊び、個の役割を建設的に果たしていく。選手発掘のスカウトもしかりだ。古く跋扈した「俺が俺が」の空気感を拭ったのは球団本部長嶌村聡の尽力が大きいと聞く。各々自省心が風通しの良化に繋がり、遠慮なき意見交換が正の循環を生んでいる。
今秋ドラフトの前日会議で球団社長の粟井一夫はスカウト陣、スタッフを前にした締めの挨拶で言った。
「こころ、ひとつに」
組織が一枚岩になるために求められるものは…
皆さま、よいお年を。=敬称略=
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