冗談は顔だけにして

 【11月29日】

 金本知憲が新井貴浩に「冗談は顔だけにしてくださいよ」と言うと、マツダスタジアムのスタンドはドッと沸いた。広島カープが3年ぶりに開催したレジェンド・ゲームの一幕である。

 カープ球団初のリーグ制覇から50年となる節目の年に往年の赤ヘルレジェンドが集まった。一番の盛り上がりはホームラン競争だ。

 新井「もし、私が1本でもサク越えを打ったら、来年、金本さんにバッティングコーチに来てもらいます」

 金本「何を言うとるんじゃ。打てんかったら坊主にせえよ」

 このやりとりで賭けは成立?

 金本コーチの誕生か、新井の丸刈りか…。ワクワクしながら見ていると、なんと新井が豪快弾でバンザイ。カープの現監督は「金本さん、ユニホームの採寸お願いします」と、してやったり。すると、アニキが冒頭の返しで爆笑を誘ったというわけだ。

 90年代後半にカープを取材した。当時ルーキー新井を金本がイジる日常はチームの癒やしであり、その類を挙げればキリがない。宿舎で金本が新井の部屋をピンポンダッシュしたり、新井のバッグに○○器を仕込んだり…二人にしか分からない空気感で許されるものだったけれど、今の球界でこんな芸当は誰もマネしないような気がする。ヘタすればコンプラがどうだこうだ…もしかしたら「冗談は顔だけに…」だって、容姿ネタはNGです!と言われたり?息苦しい時代になった。

 僕がこの世界に入った90年代のプロ野球は指導者が選手をボロカスに突き放す…どころか鉄拳もあった。もちろん肯定するわけじゃないし、感情にまかせてやっちゃう者は愚か。しかし、近ごろの「コンプラコンプラ…」の風潮は果たしてホンモノの健全育成に行き着くのか…。こんなこと書けば「アップデートしようね」って諭されるわけだけど、でもねぇ、球界に限らず、ビジネスでも実際に指導する側の本音と建前を耳にすれば、ぶっちゃけ自分の立場を守るために「しゃあなしで」っていう人のほうが多い気がする。

 コーチをコーチングする講師を招き座学を設ける球団もあるけれど、「若い選手をしっかり育てるため、というよりは、球団や会社のためにあるシステムなような気がします」と、趣旨に違和感を漏らす指導者も過去にいた。

 本気でこいつのためを思って…そんな指導者にとって「やりにくい時代」になっているとすれば、もどかしい。

 いつだったか、現役時代の金本&新井と食事を共にした夜に新井がこんなことを言っていた。

 「僕の夢は、僕が監督をやって金本さんにコーチをやってもらうこと」

 もちろん笑いながら…。金本は失笑していたが、さて、この日は…。

 「オファー?ないないない(笑)」

 そう言い残してマツダスタジアムを後にしたアニキだけど、僕は「臨時コーチ」でもいいから見てみたい気がする。だって、金本という人が、若い力を本気で育てたい、言葉に裏表のない指導者であることを知っているので。=敬称略=

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