野球は年齢でやらない

 【10月30日】

 山川穂高を倒したことがある。主語は阪神ではなく、この僕…って武勇伝みたいに書いたら笑われる。でも、あれも勝負は勝負。彼が大学を出て2年目だから今から10年前のことだ。

 メジャーリーガー青木宣親が沖縄で主催した合同自主トレにお邪魔したとき、若かりし山川も参加していた。

 「風さん、彼がライオンズの山川です。知ってますか?」

 青木が紹介してくれた。

 13年ドラフトの入団だから、阪神では梅ちゃんとか岩崎優、岩貞祐太と同期。名前は知っていたけれど、面識はなく喋ったこともなかった。

 第一印象だけ書けば、大きな体に似つかわしくない器用さとでもいおうか…。でも、青木から「股関節の硬さ」は改善したほうがいいと指南もされていた。柔らかくしないと、打撃でも下半身が使えない。そんなふうに…。

 ハードな練習の合間に遊び心も挟んだ。昼時に参加メンバーでジャンケンして負けた者がハンバーガーを買いにいく。一緒にどうぞと言われてこっちも真顔で挑んだ。

 敗者は山川だった。心理戦で(?)沖縄生まれの23歳に勝った。でも、インスピレーションはまったく働かなかった。彼が後に4度もホームラン王に輝くとは1ミリも想像が及ばなかった。しかも、10年後の頂上決戦で猛虎悲願の前に立ちはだかるなんて…。

 1勝4敗。藤川阪神は誰に日本一を阻まれたか…。この夜、柳田悠岐、野村勇に浴びた本塁打はもちろん痛かった。しかし、やっぱり猛虎にとって一番のヒールは33歳の主砲だった。

 山川をどう倒すか。そんな焦点を眺めれば、シリーズ3戦連発の主砲を抑えた大竹耕太郎&坂本誠志郎のバッテリーは素晴らしかった。

 振り返れば、このシリーズの初戦、山川はスタメンを外れていた。分岐点は第2戦。この男を生き返らせたあの被弾はやっぱり悔しい。

 「(今年の打撃の状態は)すっとこどっこいだった」と苦笑していた山川だけど、それでもレギュラーシーズンで23本スタンドに放り込んだ。だからこうやって頂上決戦で巡った好機をモノにする。敵ながらあっぱれである。

 さて、この瞬間からもう来季へ向かう。石井大智の涙をずっと忘れず、これを糧として来季この舞台へ再び戻るために阪神はどうあるべきか。

 もしホークスに倣うならば、僕は柳田、有原、そして、山川…彼らのような30代の「抗い」を大いに刺激にしてもらいたいと思っている。思えば、山川の師匠だった青木は日本球界に復帰した36歳のシーズンに打率・327を残し「年齢で野球はしない」と語っていた。10年前の青木の歳になった山川も間違いなくそんな矜持を携えて勝負してきた。ベテランと若手の融合が際立つホークスだけど、それこそ強さの秘訣だと感じさせるシリーズだった。

 藤川球児はフラットな指揮官だ。年齢がいこうがいくまいが絶対的な力を誇示する者は使う。若手へ移行すれば強くなるわけじゃない。来季、あらたな虎の融合を見たい。=敬称略=

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