猿芝居はなかったが…

 4回、牧は左中間スタンドへ勝ち越しの本塁打を放つ(撮影・立川洋一郎)
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 【10月16日】

 今月の日経新聞『私の履歴書』は岡田監督の半生だから、楽しく読ませてもらっている。岡田といっても、彰布ではなく武史のほう…。サッカー日本代表を初めてW杯へ導いた名将だ。

 この日のタイトルは「ジョホールバル」。98年フランスW杯の出場を決めたマレーシアの都市名だけど、岡田の記述で思い出したのは、決戦の相手イランの猿芝居だ。大一番の前日練習でイラン代表の主力が車椅子に乗って、負傷偽装でグラウンドに姿を見せた。いわゆる陽動作戦だけど、その選手は一夜明けた本番でピンピンしていた。

 そんな猿芝居にはなかなかお目にかかれないが、プロ野球でも決戦の相手が本当に痛んでいる場合、その情報は正確に把握する必要がある。

 先週、フェニックス・リーグの取材で宮崎へ行ってきた。といっても阪神戦は1試合見ただけ。主目的はDeNA…中でも故障明けの牧秀悟が最終調整するというので気になった。

 8月に左手親指の手術を受けた牧がCSに間に合うのかどうか。

 2カ月ぶりに実戦復帰した宮崎では2試合で8打席に立って無安打。守りでは一塁で先発し、二塁にも就いた。平日の寂しい客席にヨソの球団関係者はいない。牧の現状を阪神の誰かに伝えようか…なんて考えたりもしたけれど、牧が猿芝居で車椅子にでも乗っていれば別だけど、どうやらCSに間に合いそう…なんて情報は阪神はとっくに掴んでいたし、牧はその2試合をこなすと、すぐに横浜へ帰っていった。

 夏場以降、DeNAのスタメンから4番が消えたのは、阪神目線でいえばもちろん助かったし、DeNAにとっては痛恨だった。藤川球児はCS前の会見でDeNAと巨人を「夏までのチームとは全く違う」と語っていた通り、どうにか牧を起こさないままこのシリーズの幕を閉じたかったが、この夜はやられてしまった。同点の四回、才木浩人の速球をパーフェクトに捉えられた。甲子園の秋風はいわゆる浜風とは逆…つまり左から右へ吹く日が多く、第1戦の夜は実際にそうだった。しかしこの夜は右から左。左翼席へのフォローとなる浜風が牧の打球、そして、彼の中央大の後輩、森下翔太の天晴れな大飛球を後押ししてくれた。

 佐藤輝の先制打、牧の勝ち越しアーチ、輝の同点打…両軍の主砲がキーになった第2Rだけど、それにしても、よーいどんで輝が難しい内角攻めをタイムリーにしたのは頼もしかった。

 内角攻めといえば、今季の輝と牧で対照的だったのは死球の数である。牧は93試合で10死球。輝は139試合で死球ゼロ。なぜか…。他球団の指導者や選手が口を揃えるのは輝の「力感」だ。7~8割の力で打席に入っているのでタイミングの取り方が「衝突」しないそれになっているという。内角攻めが少ないというよりも強引さが減ったことで避けられる球も多い?真偽は本人のみぞ知るだけど、ケガのリスクを考えれば死球無しに越したことはない。このポストシーズンもラストシーンまで健康な4番であってほしい。=敬称略=

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