60点台の採点を忘れない

 【10月26日】

 阪神オーナーの杉山健博と同球団社長の百北幸司は朝から名古屋へ向かった。ドラフト前日、25日のことだ。今夏死去した中日元オーナー大島宏彦の「お別れの会」に参列するためである。

 大島宏彦といえば、95年~00年にドラゴンズのオーナーを務め、第2次星野仙一政権をバックアップした方だが、その間(かん)のドラフトが竜の黄金時代を築いたことは、野球ファンも知るところだろう。荒木雅博(95年1位)、川上憲伸(97年1位)、福留孝介(98年1位)。虎が嫌というほど苦しめられた面々である。

 名古屋観光ホテルで開催された「お別れの会」に参列した中日監督の立浪和義は「強いドラゴンズを天国から見てもらえるように」と、逆襲を誓って都内のドラフト前日会議に合流したわけだけど、阪神社長の百北も同じく名古屋から品川へ向かい、虎陣営の待つスカウト会議に合流。その日の夕刻岡田彰布とともにグランドプリンスホテル新高輪の一室でスカウト陣の報告を受けたわけだ。

 さて、今年10度目のスカウト会議で阪神は青学大・下村海翔の1位指名を決め、4年ぶりの有観客ドラフトに臨んだ。見事一本釣りに成功した岡田は「ひょっとしたら(競合)というのがあったんですけど、良かった」。スーツの左胸につけた球団ペットマークの社章が右に傾き、虎が「おおきに」とお辞儀しているように見えた。

 「村上に似たタイプでカットボールがエグいと聞いてます。青学は(常広羽也斗=広島1位)2人いても(力量は)遜色ないという評価をスカウトから聞いていた。重複しないように祈ってました」

 下村のどこを評価したのかと問われた岡田はそんなふうに返していたが、村上のような安定感のある投手になれるかどうか。現段階では神様だって分からない。

 今季最優秀防御率のタイトルに輝いた村上だが、彼のドラフトといえば、なかなか異例だった。16年のセンバツ優勝投手は東洋大でドラフト候補になり、複数球団の指名リストに挙がるまでになったが、4年秋の東都1部リーグ開幕戦で右前腕を故障。阪神は村上から一旦手を引いたのだが、当時監督の矢野燿大がこれを覆し指名…という有名になった逸話がある。

 村上が輝いた今だから「矢野の英断」とされる一方、現場のスカウトは素晴らしいマウンドもそうでない村上の姿も全て見ていた。つまり、獲得の〈リスク〉を一番知っていたわけで、矢野の進言を受け入れた編成サイドの勇気も称賛されるべき…そんな声も実は少なくなかった。すべては村上のたゆまぬ努力があの異例のドラフトを美談にしたわけだ。今回、1位の下村から育成2位の福島圭音まで阪神が指名した全8選手を読者は何人ご存じだろうか。阪神フロントは、近本、小幡、木浪、湯浅を指名した18年ドラフトの翌日、60点台をつけた新聞の総評を「ずっと忘れずに」ここまでやってきた。採点は5年後。岡田の言葉を借りて、23年は「エグい」ドラフトだったと書きたい。=敬称略=

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