佐々岡らしくない演出

 【5月10日】

 珍しかった。六回のJ・マルテである。1ボールからツーシームを空振り。沈むボール球だった。「選球眼の鬼」がそれを強振したのは、好感触だった前打席の残像がよぎったか。

 この夜カープ先発・床田寛樹から一番の快音を響かせたのは、四回のマルテだったように思う。1ボールから直球を強振したが、レフトへのライナーに終わった。故障から復帰し、即3番スタメン。何とか結果がほしい。そんな力みもあったと思う。冒頭書いた六回の打席は1発出れば逆転の局面。1ボールから直球にヤマを張ったようなM砲の強振はしかし、奏功せず。結局、最後は高めのボール球を振らされ好機を逸した。

 床田は制球を武器に阪神打線を翻弄した。終始ストライク先行の左腕が2ボールにしたのは五回の北條、熊谷、九回の佐藤輝、大山の計4度。それ以外、1ボールにした打者10人に対しては、全て2球目にストライクを投げ込んだ。マルテと同じくこの日出場選手登録された陽川尚将は、ベンチでずっとそれを見ていたのだろう。六回、代打に出ると、1ボールから絶妙に制球されたツーシーム…ファーストストライクを迷いないスイングでレフトへはじき返した。

 マルテ、陽川、そして、北條史也…彼らの顔を久々に見た。

 がんばれ!

 とくに陽川、北條。それぞれ事情は違えど、キャンプは2軍スタートだった。もうダメなんじゃないか…そんな前評判を覆す時がきた。逆境をパワーに変えて…。

 反骨心は強い。

 そんな見方をすれば、前評判の低かったカープがそうだ。ここまで頑張っているのは、チーム全体に流れる反骨の心。そう感じる。

 僕の独断予想だけど、今季のカープはやる。ひょっとすればとまで書く-当欄でそう綴ったのは3月9日だから、あれから2カ月。

 3年目の佐々岡カープはやる。つまり、優勝する。集大成の矢野阪神を追い掛けるライターが何てこと書くのか。読者からのお叱りを承知で、でも、2カ月前の時点での、ホンネを書いた。

 佐々岡真司という男を20余年前から見ている。派手なことはしない。というかできないし、似合わない。ファンが喜びそうな何か特別なことをやったり、選手が感激するようなサプライズの言葉を用意したりもおそらくしない。

 島根生まれの、素朴で、武骨な気質。そんな佐々岡が開幕日に、らしくない演出をしたと聞いた。

 RCC(中国放送)に「いざ開幕」の映像を依頼した。そこには懸命に打つ、投げる、走る、そんな選手の姿がBGMとともに…そこまでは想像がつくが、もうひとつ…佐々岡は、新聞などメディアが報じた評論家諸氏の「カープ下位予想」の画像も取り入れ、開幕日に選手に見せたそうだ。

 カープ首位に肉薄。少なからず、そんな反骨心も原動力になっているような気がする。必ず見返してやる。そんな思いが束になれば思いがけず、力になる。もちろん、猛虎だって。=敬称略=

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