言っても伝わらないもの
【7月28日】
日本代表のプレッシャーは日本代表のユニホームを着た者にしかわからない。こんな一介の記者にはもちろん分かるはずもないので実際に当事者にその度合いを聞いてみたことがある。
「風さんに言っても、伝わらないと思います」
北京オリンピックで4番を担った新井貴浩はそう言った。
13年前、北京でメダル無しに終わった星野ジャパンを成田空港で出迎えた話を以前書いた。当時虎番だった僕がなぜ日本代表を出迎えに行ったかといえば、帰国前夜約束したからである。
「成田から一緒に神戸まで帰りましょう」
新井が北京からそんなメールをくれたので、ヤクルト戦の取材で都内に泊まっていた僕は千葉まで出向いたというわけだ。
成田空港から東京駅までタクシーに乗り、その車中で前述の「プレッシャー」の話を聞いた。
敗戦間もない日本の主砲に聞くことか?そう思われるかもしれないけれど、このタイミングでしか本音を聞けないと思ったので、KYを承知でぶつけてみた。
あの夜、東京駅から新幹線に乗り、新神戸まで帰るつもりが、台風の影響でストップ。品川駅の手前で車内に閉じ込められてしまうと、新井は「降りましょうか」とぽつり。都内に泊まって晩メシを食べることにしたわけだが、そのテーブルで新井にさらに聞いたことがあった。
「阪神と代表を比べてどう?」
この年カープからFA移籍した新井から「巨人と双璧の伝統球団でプレーする重圧」の度合いを聞いていたので、あえて確かめたのだけど、本人の答えは…
「また違う種類のものです」
それこそセンスのない質問だと分かっていたけれど、今から思えば、その5年後、鳥谷敬から聞いた言葉と重なったような…。
13年に開催されたWBCに於いて、普段タイガースでは見せたことのない鳥谷の激情が、予選ラウンドから話題になった。
あの年、米国アリゾナで合宿していた侍ジャパンを追って金本知憲とともに渡米。鳥谷ら侍戦士と食事をする機会があった。
「いや、もう…全然違います。こんな気持ちになるのは初めてかもしれません」
鳥谷が日本代表で戦う心持ち、日の丸の重圧をそんなふうに語っていたことが忘れられない。
「最初はみんな重い雰囲気でやってましたけど、今日の勝利で、いい雰囲気でやれるのかな…」
この日、東京五輪ドミニカ共和国戦でサヨナラ打を放った坂本勇人はそう語っていた。
坂本の言う通り、序盤から日本ベンチが何だか〈金縛り〉にあったかのように硬く映った。これこそ、新井から聞いた「言っても伝わらない」プレッシャーなのか。果たして青柳晃洋もそうだったのか。これから白星を重ねれば、ほぐし薬になるのだろうか。
こちらに伝わらなくてもいい。想像つかないものをはねのける侍を見てみたい。=敬称略=