ろくなことにならん球団
虎の快進撃「道頓堀にダイブしたい」-そんな見出しにつられて今週号の「週刊朝日」を買った。阪神が優勝する根拠がいくつか挙げられているけれど、やはり一番は「サトテル」効果だという。
怪物の力量はもちろん、輝の打撃スタイル、パフォーマンスがチーム内に伝播すること、相手に与えるストレス、脅威…敵味方双方への波及効果がいずれも阪神のアドバンテージになるのだと。
よくいわれることだけど、佐藤輝明の凄みは、何よりも、およそ新人らしからぬ落ち着きようだ。10年戦士でもなかなか醸し出せないベテラン然としたオーラが確かに彼から出ているように思う。
「週刊朝日」をパラパラめくってみると、作家・後藤正治の連載「追想 漢たらん」に出あう。
今号はかつてカープで活躍した名物スカウト木庭教(きにわ・さとし)について綴られているのだが、これがとても興味深い。
木庭といえばスピードガンを日本で初めて取り入れたスカウトとしても有名だ。衣笠祥雄、山本浩二をはじめ三村敏之、達川光男、高橋慶彦、川口和久、大野豊、正田耕三、長嶋清幸…カープの黄金期を築いた錚々たる面々の獲得に辣腕をふるった人だけど、後藤の筆で興味深く読ませてもらったのは、阪急との日本シリーズでMVPに輝いた「マメさん」こと長嶋清幸獲得のエピソードである。
高校時代、静岡で札付きのワルだった長嶋だけど、それでも非凡な打撃に惚れ込み、木庭は長嶋の両親にドラフト外での広島入りを説得する。その口説き文句が…。
「この子が東京や大阪の球団に入ればどうなるか?まずろくなことになりゃせん(中略)。広島は田舎だから、スターといえば野球選手ぐらいのもんだ。ネオン街で遊びほうけておれば、すぐにファンからの通報がくる。おちおち酒も呑んでおれん土地柄なんです。この長嶋君にはもってこいの球団だと踏んでおるんです」-。
長嶋は晩年阪神に籍を置くことになるが、このとき木庭が言った「大阪の球団」とはもちろん、言うまでもない。
ろくなことにならない…。
もう故人となった木庭の言葉をいま一度、かみしめてみる。
野球界で「阪神病」なるものが少なくともかつて存在したことはこの世界にいる者は知る。誘惑に負け、本業を忘れ横道へそれる。僕も、悲惨な末路をいくつか見た証言者のひとりかもしれない。それだけに、毎年新人が加入する度余計なお世話と分かりながら、有望な才能を案じることがある。
今の阪神に病巣がある前提ではないけれど、ステイホームのコロナ禍を前向きに捉えるならば、このときこそ野球に集中できる抜群の環境なのか…。他意はなく。
佐藤輝明?
取材の限り、彼はノープロブレムだと多方から聞く。田舎だろうが都会だろうが、日和らず、ブレない才能があるように思う。阪神こそが「もってこいの球団」…それを一年目から証明するところが輝の頼もしさである。=敬称略=
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