森下を崩した怪物の快足

 【4月14日】

 オーガスタの余韻が冷めない。東北福祉大ゴルフ部監督の阿部靖彦は教え子の松山英樹に「人の2倍、3倍じゃない。5倍、10倍努力しないといけない」と語ったというが、これを噛みしめてみる。

 10倍…。言葉にすると軽くも聞こえるが、こんなこと普通はできない。野球でいえば、例えば、ライバルがバットを一日1000回振っていたら、1万回振る。実際やれますか?って話だ。

 でも、阿部によれば、松山はやった。こちらが気の遠くなるような努力を続けてきたから、世界の頂点に立てた。

 プロ野球を取材して長くなるけれど、いつも選手の努力をすべて見られるわけじゃない。取材対象者を24時間追えるわけでもないので…。だから、当事者や周辺を取材し、その選手の努力を知るわけだけど、最もリアルに知れるのが家族の証言だったりする。

 阪神を取材してその努力を知りたい選手はたくさんいる。この夜甲子園で初めてホームランを打った佐藤輝明でいえば…

 彼が少年時代に所属した甲東ブルーサンダース出身の知人、あるいは、仁川学院時代の佐藤の友人なら、何とか繋がりがあったりするけれど、残念ながら、ご家族とは面識がない。だから、我がトラ番の取材〈佐藤の父・博信がデイリースポーツに寄せた「息子への手紙」〉を頼りにする。

 「人には持って生まれた才能、センスがあります。君は勉強もそこそこできる方だが、野球をしている時が一番しっくりくるし、輝いていると思います」-。

 佐藤の父はそう綴っていた。

 甲子園と無縁だった高校時代を思えば、もしかしたら人の10倍の努力で力をつけてきたかもしれない。だけど、父はそこには触れていなかった。

 生まれながら、あなたには天賦の才があった-のだと。

 強風舞う甲子園で、ライトスタンドへ伸びた怪物ルーキーの飛距離にファンは酔いしれた。このパワーこそ、藤浪晋太郎がドン引きする、中野拓夢が「外国人のような」と語る、誰にも真似のできない「天賦の才」ではないか。

 森下暢仁を粉砕した値千金の一発はもちろんだけど、僕はこの夜彼の持って生まれた、もう一つの才能にも価値を見た。

 0-0の二回である。

 2死無走者から佐藤が四球で出ると、続く梅野隆太郎の打球は何でもない遊ゴロに見えた。これをカープ田中広輔がファンブルし、慌てて二塁へトスするも、間一髪佐藤のスライディングが勝った。 このプレーが中野の先制タイムリーに繋がったのだ。

 二塁ベース寄りへゴロが転がった瞬間、田中が慌てたのは「佐藤の俊足」が頭に入っていたから。そう考えれば、脚光を浴びる外国人並みのパワーのみならず、やはり、その脚も敵陣の脅威になる。

 パワー、肩、足…常人が鍛えても限界のある「持って生まれたもの」に、佐藤が人10倍の努力で磨きをかければ…。夢は無限大に広がる。=敬称略=

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