そこに東大があるから

 【4月7日】

 実は、原辰徳の用兵に注目していた。前夜、2ランを放ち巨人唯一の見せ場をつくった香月一也をこの日もスタメン起用するかどうか。阪神先発は左の伊藤将司。原は香月をつかわなかった。

 昨年、沢村拓一との交換トレードでロッテから移籍した24歳は、大阪桐蔭時代に甲子園で全国制覇した左の大型スラッガーである。阪神対巨人戦でプロでの打席を初めて見させてもらったのだが、西勇輝と3度の対戦であらためて雰囲気のある打者に映った。

 年俸1億5000万超の沢村と同650万円の香月のトレードは両球団ファンの間で物議を醸したようだけど、いやいやどうして。

左打者で甲子園の中堅左へ運んだ移籍1号アーチは、西も呆然とその行方を眺めるしかない完壁な軌道。96年生まれ、岡本和真と同学年の背番号66は、もしかすると、今後ジャイアンツの主軸に成長するかも。原のトレードは大成功だったと称えられるかも…。それくらいの魅力を僕は感じた。

 夏の甲子園96回大会で活躍した香月は、その秋の18歳以下アジア野球選手権で智弁学園の岡本とクリーンアップを組み、準優勝に貢献したことは記憶に新しい。

 藤浪晋太郎の2つ下、香月が躍動した大阪桐蔭といえば、屈指の進学校でもある。今週号の「サンデー毎日」で、甲子園とは無縁の舞台でその校名を見つけた。

 同誌は今春の東大合格者834名の実名アンケートを掲載。その項目は1出身予備校2東大を選んだ理由…。最高峰に受かった秀才の声を読みながら「おっ?」と目に留まった合格者が一人いた。

 1は空欄。つまり塾の類には一度も通わず…それはいいとして、2にこんなことが書いてあった。

 「そこに東大があるから」

 出身校を見れば、大阪桐蔭…。

 なんちゅう18歳だ…。

 右には左。左には右。定石通り巨人は一塁手、二塁手ともにスタメンを前夜と入れ替えた。いや、ときにデータも定石も度外視する原理論で前夜ホームランの左打者は出番がなかったのかも…。

 移籍会見で「岡本選手に負けないように頑張ります」と語った香月にとって、巨人不動の4番は目指すべき大きな山であり、それこそ、「そこに岡本がいるから」の思いが少なからずモチベーションになっていると想像する。

 「岡本選手は同級生で早くからプロへ行って4番を打っているのが印象的。対戦して抑えたい」

 この夜、うれしいプロ初勝利を挙げた伊藤将司が、阪神と契約を結んだ席で語った言葉である。

 横浜高校時代、神奈川大会決勝で3年「最後の夏」を逸し、テレビで岡本や香月の活躍を眺めた左腕は今こうして、甲子園で無数のフラッシュを浴びている。

 岡本を無安打に抑え、打でも追加点を呼ぶ貴重な犠打。高校時代結果を出せなかった聖地で記念すべき第一歩を刻んだ。

 そんな伊藤もまた「そこに岡本がいるから」と、偉大な同級生との対戦を夢見て這い上がってきた一人である。=敬称略=

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