阪神・坂本が2死三塁、1ボールからマウンドの工藤に駆け寄ったわけとは 「開き直って勝負するしかない。球場の雰囲気を変える力を持っている」 女房役としての信念
「阪神2-3中日」(12日、甲子園球場)
阪神は最終回の追い上げも一歩届かず、中日に甲子園では23年9月27日以来、563日ぶりの黒星を喫した。
敗れはしたが、九回の攻防は見応えがあった。注目したのは九回表の2死三塁、育成ドラフト1位の工藤が駿太に高めのボールを投じた後、捕手の坂本がマウンドへ駆け寄った場面だ。その意図とは。どういう言葉をかけたのか。試合後に明かしてくれた。
「どんな形でもゼロで帰ったら、ゲームは生きてると思った。“1回、開き直って投げてほしい”と思って」
2点ビハインド。1点でも取られれば、非常に苦しい展開となる。工藤は無死から2者連続の四球で一、二塁としたが、板山を二ゴロ併殺打。大ピンチが一転、流れを呼び込むチャンスにもなっていた。
前回登板の9日・ヤクルト戦でも制球が定まらず、2失点で負け投手。この日もコントロールに苦しんでいた。ファンもその状況は知っている。ボールになっても、自然と背中を押す拍手が送られていた。
坂本は言う。「球場の雰囲気を変える力を持っているんだから、堂々とマウンドで投げてくれたらいい。プロ野球だし、やられることもある。でも、あれだけのボールを投げることができる選手がそもそもいないわけだから。マウンドに上がった以上、自分の球を信じていくだけだから」。特別な言葉はかけていないという。ただ、工藤の中で何かが明らかに変わった。
声をかけてから、2球連続の直球でファウル。最後はカットボールで空振り三振に仕留めた。坂本もガッツポーズ。工藤はホッとしたようにベンチへ戻った。
大盛り上がりの聖地。結果的に逆転とはならなかったが、その裏の攻撃ではあと一歩まで追いつめた。無失点で切り抜けたこと。雰囲気を変えられる工藤が抑えたこと。サヨナラの予感さえも漂わせた。
「気持ちをちょっと楽にさせてあげたい」という思いが届いた、その後の4球。「次の登板も大事だと思う。最後みたいなのを最初から出せば、工藤はやっぱり大丈夫やなってなるから」。右腕も「坂本さんの声かけや球場の雰囲気もだいぶ変わって、応援してくれて」と感謝していた。
併殺からの1球。そのままの流れではなく、あえて一呼吸置いたことに坂本のすごさを感じた。「誰がピッチャーで来ても、抑えるってことに対して責任を持って一緒にやっていきたいと思ってるから」。女房役として当たり前の行動かもしれないが、大きな行動だったに違いない。
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