最愛の息子を亡くし…保護猫が「生きる力」をくれた 保護猫カフェがB型事業所と提携「猫と関わるうちに笑顔に」
愛知県名古屋市西区にある、二階建てバスを活用した保護猫カフェ「ひだまり号」。オーナーの祖父江吉修さんと昌子さんが夫妻で運営し、8月で7周年を迎えます。
ひだまり号のドアを開くと、迎えてくれるのは保護された猫たちの柔らかな気配。これまでに数えきれないほどの猫たちがここで一時の居場所を得て、里親の元へと旅立っていきました。今では毎年80匹ほどの子猫が引き取られ、亡くなった子を除けば年間約70匹が新しい家族と出会えています。
祖父江さんご夫妻が保護猫カフェを始めた背景には、深い物語があります。11年前、最愛の息子さんを突然亡くし、祖父江さんは心を閉ざし引きこもりの生活に。しかし、ある日獣医師から託された1匹の赤ちゃん猫が、心に光を取り戻すきっかけとなりました。
「私が世話をしなければこの子は生きられない」
その一心で、再び社会とつながる勇気をもらえたと言います。
以来、命のバトンをつなぐように保護猫活動を続け、今では猫の存在が、人の心を癒やし生きる力を取り戻す「アニマルセラピー」としての役割も果たしています。
■ 猫と人が共に支え合う場へ--「sunny spot」立ち上げの理由
ひだまり号ではこの7年の活動の中で、多くの猫だけでなく、人もまた救われてきました。今年8月、ひだまり号の新たな一歩として、就労継続支援B型事業所「sunny spot(サニースポット)」を立ち上げます。
これまでの2年間、他のB型事業所と提携し、精神疾患などで社会から離れた人たちが、猫の世話を通じて少しずつ心を開き、笑顔を取り戻していく姿を見守ってきました。
「人には言えないことも、猫にはそっと寄り添ってもらえる。余計な言葉はいらない。ただ一緒にいるだけで、心がほぐれていくんです」
祖父江さんは言います。
実際に、ひだまり号に通うことで社会復帰を果たした人もいます。
「最初は朝起きることさえできなかった」といううつ病の女性は、猫と関わるうちに徐々に笑顔を取り戻し、やがて「トリマーになりたい」と夢を語るように。今では専門学校に通いながら、実際にサロンで働いているそうです。
■ 猫に教わる「小さな自信」の積み重ね
sunny spotでの作業は、ひだまり号で暮らす猫たちのお世話が中心です。トイレ掃除やブラッシング、爪切りや薬を飲ませるケアなど、どれも大切な命を守る仕事です。「お尻をポンポン叩いて欲しいと寄ってくる猫もいて、ゴロゴロと甘えてくれる。その瞬間の利用者さんの笑顔は本当に素敵なんです」と祖父江さんは語ります。
1匹ずつ向き合い、猫に心を許される小さな経験が、「自分は必要とされている」という実感を育てていきます。
■ 後継者を育て、猫と人の居場所を守りたい
高齢化が進む中で、祖父江さん夫妻の願いは、この活動を若い世代に引き継ぐこと。
「息子が作った曲のように、sunny spotを“ひだまり”のような場所にして、誰もがふらりと寄りたくなるような場所にしたい」
後継者を育てながら、猫たちと人が共に生きる場所を未来に残したいと考えています。
祖父江さんはこう呼びかけます。
「猫に救われた私がいるように、誰かの人生も、猫たちがそっと背中を押してくれます。ペットショップに行く前に、ぜひ保護猫たちを思い出してください。最後の時まで家族として一緒に暮らしてほしいです」
■「sunny spot」に集まる人々へ
sunny spotでは、猫が好きな人を待っています。「まずは週に1回からでもいい。一緒に少しずつ働きましょう。猫たちから癒しと元気をもらって、また一歩ずつ進んでいけたら」と祖父江さん。
猫と人が互いに支え合う「小さなひだまり」は、これからも多くの命を温め続けます。
(まいどなニュース特約・渡辺 晴子)





