電車の中で男性に体をずっと押し当てられている。しかし、その場では何も言うことができなかった…。被害を受けたと思っても、声をあげることに誰しもが躊躇してしまう痴漢の現場。タレント活動とあわせて探偵業も行い、「盗聴ハンター」として活躍する八幡愛さんも、いざ声をあげるのには、大きな勇気が必要だったようです。

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　相手に悪意があるのかないのか、故意なのか過失なのか分からない状態で、自分が不快な思いをしていることを伝えるのはとても勇気のいることです。私は毎日のように電車を利用しますが、最近、嫌な気分になったり戸惑うことが多いです。

　ある日、まさに寿司詰め状態の満員電車でつり革に捕まっていると、太ももあたりに違和感を感じました。

　スーツ姿の男性の股間がずっと当たっているんです。

　最初は満員電車なので仕方ないと思って我慢していましたが、明らかに異様な気配だったので身体の方向を変えました。それでも私の動きについてくるかのように、一向にその状況は改善されませんでした。

　私は日頃から思ったことはハッキリと言えるタイプですが、その場で何も言えませんでした。声をあげたとしても、それは自意識過剰で勘違いだと言われてしまえば、恥ずかしい思いをするのは自分の方ではないかという考えが頭を巡りました。

　ただ、本当に仕方がなかったのかもしれないので、後日、知人男性達に状況を説明したところ、万が一そのような状況になる恐れがあったとしても、男性側が自ら身体の向きを変えて、相手に誤解を与えないように誰もが対処するはずだとのことでした。

　また別の日には、進行方向を向いた座席の通路側に座っていると、真横に中年男性が立ちました。

　その人は私の頭上にある荷物棚にカバンを置いたのですがその途端、異様な距離感で、車両が混んでいないのにも関わらず、ちょうど私の肩に股間が当たるようにしてつり革を持ってその場に佇むのです。

　でも周りから見れば、ただのつり革に捕まってるだけの人なんですが、荷物棚を利用することで自然と座席との距離を詰めてきているようにも思えました。

　この時も、私は何も言えませんでした。

　明らかに股間が自分の身体に押し当たっていますが、それは私にしか分からないことで、勘違いだと言われれば終わりですし、そもそも「近づかないでください」と周りの人の目があるなか、見ず知らずの人には言えないものです。

　そして何より、相手がわざとなのかそうでないのか、確信ももてません。

　それが故意であったとしたら、非常に卑怯なやり方です。

　相手にどっちだろうと戸惑わせて、自分は平然とその状況を楽しみ、万が一何か言われたとしても、そんなつもりじゃなかったと言えば済みます。場合によっては、疑われたことに腹を立てて怒ることもできます。

　実際、冤罪事件を生みやすい痴漢の現場では、被害かなと思っても声をあげることには誰しも躊躇するはずです。明らかな被害でない限り、その場の自分さえ我慢すれば事は過ぎ去り、なかったことになる。

　不快な思いをしながらもそのような思考回路になってしまうのは、性的な被害において、声をあげた被害者自身が落ち度は無かったのかなど責められてしまう風潮があることを、私たちが心のどこかで感じているからだと思います。

　女性専用車両を使えば済む話だと言われそうですが、実装されている車両には限りがありますし、電車に乗るなと言われてもそうはいきません。いまだに痴漢被害がこの国から無くならないのは、問題の本質がそれでは解決しないからです。

　私は、盗聴ハンターとしても活動し、数々の犯罪と対峙してきたにも関わらず、２回ともその場で何も言えませんでした。今はそのことをとても後悔しています。相手がわざとであっても悪気がなくても、自分が不快であるなら、はっきりと伝え、意思表示をすべきでした。ほんの少しの勇気を持てば、私と同じような嫌な思いをする人が1人でも減ったかもしれないと考えると、とても悔しいです。

◆八幡愛（やはた・あい）兵庫県出身。関西を中心に活動するマルチタレント。ＦＭラジオやインターネット番組にレギュラー出演する傍ら、テレビ朝日系「ビートたけしのＴＶタックル　詐欺＆盗聴の最新悪質手口徹底的にバラしてやるＳＰ」などのテレビ番組で「盗聴ハンター」としても活躍中。２０１８年に犯罪防止や犯罪者の更生に寄与した人を表彰する作田明賞を最年少で受賞するなど、社会問題へ強い関心を持つ。公式Ｔｗｉｔｔｅｒ：https://twitter.com/aiainstein