いざという時のために「かかりつけ医」を探す方法

 大阪市で太融寺町谷口医院を開業している谷口恭先生は、「気に入った『かかりつけ医』を持つことは難しい」という言葉をいままでに何百回となく聞いているという。私もそう問いかけた1人ですが、皆さんは、いまのかかりつけ医に満足していますか。谷口恭先生にかかりつけ医のみつけ方について話を聞きました。

  ◇  ◇

■「かかりつけ医」とは何

 -「かかりつけ医」とは何なのでしょうか。

 「日本医師会では、かかりつけ医のことを『健康に関することをなんでも相談でき、必要な時は専門の医療機関を紹介してくれる身近にいて頼りになる医師のこと』としています」

 -「なんでも相談できる」とありますが、たとえばどんな時に受診すればいいのでしょうか。

 「風邪をひいたときや高血圧や糖尿病でずっと薬を飲まなくてはならなくなったとき、ぎっくり腰になったとき、じんましんが出たとき、タバコをやめたいと思った時、インフルエンザの予防接種を受けようと思ったとき、最近調子が悪く、更年期障害ではないかと思うとき、包丁で手を切ってしまったとき、認知症のおじいちゃんの介護に手がかかるようになり、主治医に意見書を書いてほしいとき、がんの末期だが住み慣れた自宅で余生を過ごしたいときなど、予防から治療まで日常的によくあることが起こった時に相談できるのがかかりつけ医です」

 -病気には、身体だけではなく心や社会的背景がからんでいることもあるのではないでしょうか。

 「かかりつけ医は、患者さんの家庭環境や仕事などの生活状況、思いといったことまで考えて診察します。たとえば、働き盛りの人は昼食後の薬を飲み忘れることがよくあるので、できるだけ朝晩だけで済むように処方するとか、週末に用事があるからなんとしても今日中にかぜを治したいといったことにも耳を傾けます。心臓や足などのパーツだけを診るのではなく、患者さんを取り巻く全体を診るということです」

■「理想のかかりつけ医」の見つけ方

 -そうはいっても、なかなか「いい先生」となるとみつからないので、妥協している人が多いように思うのですが。

 「先日も、長年当院を受診していて、東京に引っ越した患者さんから『なかなかかかりつけ医がみつからなくて困っている』というメールが届きました。しかし、当院も必ずしもすべての人の『理想のかかりつけ医』になれるわけではなく、クレームもありますし、特に濃厚な検査を希望する方からは不評です」

 -濃厚な検査や治療とは?

 「例えば、念のためにする採血とか疲れた時の点滴、風邪に抗菌薬といった不必要なものです。我々の仕事は『検査や薬をできるだけ少なくすること』なのです」

 -広く情報を集めるために、ネットやSNSで理想のかかりつけ医を探すといいのでしょうか。

 「一部の人は『医師は余っている』と言いますが、我々の実感としては、まったく足りていません。圧倒的に『供給<<需要』の関係になっています。ですから、(まともな)医療機関は宣伝やPRをしませんし、患者数がすでに飽和していますから、新たな患者を受け入れる余裕がないのです。また、理想のかかりつけ医をすでに持っている人は、これ以上待ち時間が増えると困りますから、家族や友人にはそれを伝えてもネットに書き込んだり、不特定多数にSNSで情報を流したりしません」

 -では、どうしたら「理想のかかりつけ医」に出会えるのでしょうか。

 「それには、次の2つの方法しかありません」

(1)信頼できる友人や家族から情報を得る

(2)近くから(かかりつけ医は近くが理想です)順に受診してみる

 「どれだけ情報化社会になろうが、医療機関は『いい情報を伝えれば待ち時間が長くなり、病院も患者も損をする』という構造がありますから、『理想のかかりつけ医』を見つけるのは困難なのです」(神戸新聞特約記者・渡辺陽)

◆谷口恭(たにぐち・やすし)91年関西学院大学社会学部卒業。4年間の商社勤務を経た後、大阪市立大学医学部入学。研修医を終了後、タイ国のエイズホスピスで医療ボランティアに従事。同ホスピスでボランティア医師として活躍していた欧米の総合診療医(プライマリ・ケア医)に影響を受け、帰国後大阪市立大学医学部総合診療センターに所属。その後現職。大阪市立大学医学部附属病院総合診療センター非常勤講師、主にタイ国のエイズ孤児やエイズ患者を支援するNPO法人GINA(ジーナ)代表も務める。日本プライマリ・ケア連合学会指導医。日本医師会認定産業医。労働衛生コンサルタント。主な書籍に、「今そこにあるタイのエイズ日本のエイズ」(文芸社)、「偏差値40からの医学部再受験」(エール出版社)、「医学部六年間の真実」(エール出版社)など。太融寺町谷口医院(http://www.stellamate-clinic.org/)

◆渡辺陽(わたなべ・よう)大阪芸術大学文芸学科卒業。「難しいことを分かりやすく」伝える医療ライター。医学ジャーナリスト協会会員。フェースブック(https://www.facebook.com/writer.youwatanabe)

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