レンズを通して見た日馬富士引退会見

表情を変えず、会見に臨む日馬富士=11月29日
日馬富士とは対照的に号泣する伊勢ヶ浜親方=11月29日
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 カメラのフラッシュを無数に浴びながら、何度も頭を下げた元横綱は最後まで涙を見せなかった。はっきりとした言葉で受け答えしていた元横綱日馬富士の姿は会見冒頭から号泣する師匠の伊勢ヶ濱親方とはあまりに対照的だった。

 右手でマイクを握り、左手は拳を作って膝の上に置いたまま引退の決意を語る。会見中、これまでに起こった一連の騒動を思い起こしながら、レンズ越しに彼の表情を追った。

 相撲界を大きく揺るがした暴力事件発覚後に九州場所の取材に入った。重苦しい雰囲気の中、貴ノ岩の師匠である貴乃花親方の場所入りを待つ。この日から連日巡業部屋前に張り付いて同親方の動向を追い、相撲の取組はおろか土俵すら見ない日が続いた。

 騒動は収まるどころか日に日に大きくなる。無言を貫く親方が動けばマークする報道陣も一緒に動き、黒い塊となって会場がざわめく。テレビなどの報道で、「新たな事実」が発掘されるが、一向に事態の核心が見えない。公の場に姿を見せる関係者を撮り続けるしかないむなしい取材だった。

 11月29日早朝。日馬富士の引退の一報が入り、雨が降りしきる伊勢ヶ濱部屋(太宰府市)へ向かった。

 プロの世界で活躍した選手の引き際を何度も見てきた。張り詰めた緊張感が一気に崩れたのか、涙を流す姿は強く印象に残る。

 日馬富士はどうだったか。どのような質問に対して、何を言って涙を流すのか…。表情が崩れる瞬間を逃すまいと、カメラを構え続けた。

 暴力事件が発端となって複雑に絡み合う相撲協会、親方、力士。加害者として追い詰められた日馬富士…。何度も何度も、彼の顔にフラッシュを浴びせたが最後まで心の中を推し量ることはできなかった。(写真と文、デイリースポーツ・田中太一)

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