【野球】セ・リーグのDH制導入は時代の流れ プロ野球の可能性を拓くのか
セ・リーグが27年シーズンからの指名打者(DH)制の導入を決めた。時代の流れには逆らえなかったのだろう。「9人野球」を伝統の象徴とし、投手交代や代打起用を采配の妙としたのが今や昔。近年ではWBCや五輪など主要国際大会で採用され、「10人野球」がスタンダードになった。
制度導入の動きに拍車を掛けたのは、今年のセ・パ交流戦の結果が大きかった。パ・リーグの全6球団が上位を独占し、セ・リーグ球団は貯金なしと明暗を分けた。直近10年の日本シリーズでも、セ球団の日本一はわずか3回。野手9人で戦う攻撃力に加えて、その打線に相対する投手の経験が、少しずつ戦力差を生んだと考える声は多い。
プロ野球の榊原定征コミッショナー(82)は就任直後の23年1月、都内で開催された12球団監督会議の場で「セ・リーグのDH制はどうか」と問題を提起した。野球人口の減少を危惧し裾野の拡大とともに、国際化を推進したプロ野球の魅力向上をテーマにした議論を要望。試合時間の短縮を含め一貫して現状からの改革を訴えた。歴史と伝統を守る以上に、革新による変化を求めてきた。
メリット、デメリットを考える。阪神の岡田彰布顧問(67)は監督時代から「俺はずっと反対」と主張。「監督が楽になりすぎる」とし、相手ベンチとの駆け引きを駆使した采配による流れや意外性など、長く醍醐味とされてきた戦略が失われる向きがある。「代打の神様」などスペシャリストの起用にも影響があるだろうか。
一方でメリットとしては投手の負担軽減や、野手が増えることで攻撃力アップにつながる。アマチュアに向けても「肩を壊した。足は遅い…だけど打撃は優れている」といった選手の可能性が広がる。阪神の元監督・金本知憲氏(57)も以前から「子供たちの夢を広げることができる。大谷2世をもっと日本から、生み出すことができないだろうか」と話していた。
プロ野球は誕生90年の節目を迎え、大きな転換期を迎えている。個性を伸ばして多様化の時代。パ・リーグ理事長の楽天・井上智治取締役は「アメリカにも負けない、世界最強のプロ野球国であるんだということ示していく」と言う。世界的なスーパースターになった大谷翔平がパ・リーグから誕生したように、プロ野球の可能性を拓(ひら)く決断-そう信じて近未来に思いをはせたい。(デイリースポーツNPB担当・田中政行)





