【芸能】綾瀬はるか主演ドラマ「ひとりでしにたい」あの独特な劇伴音楽は? 結成30周年のパスカルズを直撃
綾瀬はるか主演のNHK連続ドラマ「ひとりでしにたい」(土曜、後10・00)に独特の劇伴音楽を提供しているのが、今年結成30周年を迎えた14人組音楽グループ「パスカルズ」だ。近年、傑作ドラマの音楽にこのバンドありと言えるほど存在感を高めているパスカルズから、リーダーのロケット・マツ(アコーディオン)と金井太郎(ギター)に、「ひとりでしにたい」の音楽制作と30周年について聞いた。(デイリースポーツ・藤澤浩之)
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パスカルズは近年、「凪のお暇」「となりのマサラ」「妻、小学生になる」「富田望生の日日芸術」などの優れたドラマに劇伴を提供し、作品に大きく貢献してきた。「川っぺりムコリッタ」「さかなのこ」などの映画音楽も担当。オリジナルアルバムよりハイペースでサントラ盤がリリースされているほどだ。
今回は制作側のリクエストで、新境地も開拓している。
メインテーマは「主人公のキャラや部屋が、おもちゃ箱をひっくり返したようなイメージ。『凪のお暇』のテーマよりもテンポが早い(曲を)って言われて、ちょっと悩んで。そういうテンポ感で、パスカルズっぽい感じの曲ってことで」と作曲した金井は言う。
「今回は2ビート。モータウンの頃から60年代~70年代初期ぐらいにはやった感じ、ロックにもけっこうあって、こういう感じはパスカルズにないかなと思って、これだったらテンポ感が早いな」と作り始め、終活というテーマと主演の綾瀬のキャラクターを踏まえて「終活でもコミカルな内容になるので、アップテンポで明るいポップな感じのイメージなんだろう」と作っていった。
マツは「最初にメロディーだけもらった時はバラードかなと思うぐらいのゆったりした曲割りなんだけど、リズミックにやっていくとモータウンとかスタイル・カウンシルとか、ああいう感じがしたんですけど。ギターがけっこうバーッと鳴って、すごいアレンジの面白さがありましたね」と振り返る。
他にも「初の変拍子があります。奇数拍子、5拍子の曲があって、新しいかもしれない」(金井)「ピアノを多用してくれって言われたのが、今までのパスカルズと違いましたかね。テーマ変奏で弦楽だけというのも初めてかも。バイオリンにチェロをかぶせて」(マツ)といった変化があった。制作側からの「今までやってきたサウンドとはちょっと違う側面でできないか」というリクエストを容れて新たな引き出しを開けつつ、パスカルズらしさも存分に聴けるサントラとなった。
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14人の大人数ながら30年の長きにわたってわたって不動のメンバーでコンスタントに活動しているのは世界的にも珍しいと思われる。
金井は続いている理由を「それぞれ距離があって、生活があって、わりと緩い感じで活動しているのもあって存続している感じなんですかね」、マツは「トシを取って始めた(マツは結成時39歳)のもあるかもしれない。24~5歳だとみんなの(エゴ)がもっとぶつかり合ったり。あと、1人1人が独立している。そういうのって楽だと思う。あまり気を使わないでも、みんなが独立して、集まる時は集まってまた分かれていくみたいな。あまり人に依存しない」と説明する。
それに加えて、金井は「バンマスのマツがスポンジみたいに吸収して、強制というか圧力がない。仕事みたいにガチッと窮屈になることはない」と、リーダーの人間性も理由に挙げた。
最大の危機は、2020年に4月27日にチェロの三木黄太さんが、心臓に起因するとみられる病で急逝した時だった。
金井は「続けるかどうかから始まって、その後どうしようかってしばらくは。今も引きずってはいる。代わりはいないわけですから」、マツは「いなくなってみんながオロオロしてるというか。あの時が一番アレ(危機)だね。僕たちは一人欠席してもガタッとなっちゃうような感じがある」と回想する。
「できないかと思った」というリーダーだが、「続けたいっていうメンバーの言葉ですかね、その時やめなかったのは」と存続を決意。金井は「いないんだと思いながら、常に三木さんを意識しながらとかね。それはいないんだけど一緒にやってるみたいなことでもある。そういう不在の在り方なのかなと思ったりもしましたね。いないんだけど意識が(向く)。だからなんかいるような感じだよね」と、三木さんの不在を語った。
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7月12日には東京・たましんRISURUホール(立川市市民会館)大ホールで30周年記念ライブを開催する。マツが「理想だなと思っていて」という、無料のフリーコンサートだ。
「こういう記念の年はもうないと思ってるので、無料でやってみたいなというのがあって」(マツ)「フリーコンサートが、もともと構想というか希望があって。商売じゃない的な」(金井)
ユニークなのが、マツのアイデアで記念の文集を制作することだ。
金井は「文集を作りたいって唐突に言い出したのがバンマスなんで。え?新しく録音とかそういうのじゃないの?って。いきなり文集って突飛なアイデアで」と明かす。
執筆者はメンバーとゆかりのゲストで、書かされる側の金井は「大変です。文章なんか書いたことないですし。音楽と文章を書くって相反する感じがする」とぼやきつつも、「紙に向かって自分の中を書いていくのって、しんどい感じもあったけど、書き出すといろいろアイデア、欲みたいなのは出てきて」と自身の思わぬ反応を告白。
発案者のマツは「それぞれの個性が出る。なかなか面白いものができつつありますね。やっぱりこういう時は文集だな」と手応え十分だ。文集は192ページで、7月12日からライブの物販と通販で入手できる。
今後について、マツは「まあ元気で。この年になると健康がけっこう必要ですよね」と笑い、金井は「健康なうちは続くんだと思う」との見通しを述べた。パスカルズの悠揚たる歩みは、まだまだ続く。
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◆パスカルズ メンバーはロケット・マツ、あかね、金井太郎、知久寿焼、原さとし、松井亜由美、堀口紗与、うつお、大竹サラ、三木黄太、坂本弘道、永畑風人、石川浩司、横澤龍太郎。1995年結成。1997年、1stアルバム発表。2001年、CD「Pascals」が欧米、アジア各国で発売され、仏ル・モンド紙、テレラマ誌などが絶賛。仏フェス「Trance Musical Festival」に出演し、以後7回の欧州ツアー、オセアニアツアーを行う。2023年、ドキュメンタリー映画「Pascals~しあわせ のようなもの~」公開。