【芸能】「妻、小学生になる。」音楽のパスカルズ(後)サントラ&劇伴あるあるとは
14人組インストゥルメンタルバンド「パスカルズ」が、今年1月期に放送されて高い評価を得た堤真一主演のTBS系連続ドラマ「妻、小学生になる。」のオリジナル・サウンドトラック盤を今春、発表した。2020年4月27日にチェロの三木黄太さんが急逝し、13人となってからは初の音源リリースとなったパスカルズから、リーダーのロケット・マツ(アコーディオン他)、松井亜由美(バイオリン)、もう一人のチェロ(とノコギリ)の坂本弘道に聞いた。(デイリースポーツ・藤澤浩之)
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パスカルズのリリースは18年のオリジナルアルバム「日々、としつき」の後、19年の「凪のお暇」、昨年の「となりのマサラ」、今年の「妻-」と、3作連続でサントラ盤となった。
音楽を担当してきた前田敦子主演の「毒島ゆり子のせきらら日記」、黒木華主演の「凪のお暇」、今回の「妻-」は同じ制作スタッフによるドラマで、「妻-」でもパスカルズ独特の、懐かしくて温かみがある唯一無二のサウンドは健在だ。基本はインストのパスカルズだが、マツが「生まれて初めて」書いた歌詞もある。
今回、メンバーに“サントラあるある”についても聞いた。
音楽を作る側としては、どうしても使われ方が気になるという。
「ストーリーよりも音楽に見入っちゃう。『これがここに来るのか』みたいな見方ですかね。作っちゃうと素直な気持ちで見られない。作った人は単純に、最初から最後までかけてほしい(と思っている)」(坂本)
「中身が入ってこない。普通のドラマを見てても、音楽を聴くようになっちゃって」(松井)
「『凪』ぐらいまでは無条件で見ていた気がするんですけど、だんだん慣れてきて、今回は考えながら見るというか、『あそこを使ってくれないかな』とか(笑い)、そういう感じになっちゃった」(マツ)
ドラマの編集や放送尺もあるため、1曲まるまる使われることはなかなかない。坂本は「(1曲の尺を)2分として考えると、前半と後半で考えるから、どうしても最後に盛り上がりをとっておく」と作曲家のさがを明かす。実際にはドラマ本編では「(楽曲のクライマックスに)行くまでに終わっちゃう(笑い)パターンが多い」といい、「印象的なイントロがけっこう使いやすいのかもしれない」と推察する。
演劇の音楽も多く手掛ける坂本は「音楽家と(舞台の)演出家は全然視点が違う。僕の曲がここに置かれるというのが当たる確率はほぼない。『ここにこれ?』みたいなのが。監督の考えてることって分からないですね。できてみて『なるほど』って。だから、音楽家が考える映像とかに対する感覚っていうのをそのまま使うのはやっぱり…」と指摘。
マツも演出家の考えは「全然分からない」、松井も「ここのシーンとここのシーンが『同じ音楽でいい』って言われるんですけど、どう考えても分からないけど、実際に見たら『こういうことか』って」と同意する。
坂本はある著名な演出家の例を挙げる。
「スタッフは最高のものを作って持っていったけど、たいがいNG、使われない。むしろ、自分では全然いいと思っていないものを(演出家は)必ずピックアップする。スタッフが自信満々で持っていくものはまず採用されないって聞いたことがあって。なるほどなと。いいものさえあればいいものができるわけじゃないという」
パスカルズのこの後の活動としては、サントラを手掛けたのん主演の映画「さかなのこ」が9月1日に、松山ケンイチ主演の映画「川っぺりムコッタ」が9月16日に公開される。サントラが続くことで新作発表が途切れないのはファンにはうれしいことだが、18年以来のオリジナル作品も待たれるところだ。
マツは「僕はやっぱり、全くゼロから作るのが本当はいいと思っている。注文されて作ったものは、それはそれでいいけど、それを自分のバンドでライブでやるとなると『ちょっとできないな』と思ったり、そういう違いはすごくあって」と葛藤を打ち明け、坂本も「ミュージシャンの理想としては、ゼロから作ったものの方が(いい)」と同意する。
三木さんの急逝により、バンド存続についての揺れる胸中を明かしたマツだが「オリジナルアルバムを作んなきゃいけない」とも述べた。三回忌を迎え、4月28、29日に三木さんにささげるライブを開催したパスカルズが進む道に、注目していきたい。(終わり)





