【野球】甲子園V投手 母校岩倉で指導「青春時代思い出す」 阪神、ヤクルトで活躍の山口さん

 1984年のセンバツV投手で、阪神、ヤクルトで内野手として活躍した山口重幸さん(59)が母校・岩倉高校(東京)で後輩たちと甲子園を目指している。当時、岩倉フィーバーを巻き起こしたエースは、2024年4月から野球部コーチに就任。97年夏を最後に遠ざかっている夢舞台の切符をつかむため、後輩たちと汗を流す。高校野球の頂点を極め、その後38年、プロ野球界に身を置いてきた山口さん。その野球人生を追う。

  ◇  ◇

 授業を終えて西東京市にあるグラウンドに集まってきた部員たちが、山口さんの姿を見つけると、次々に背筋を伸ばしてあいさつをしていく。

 彼らが生まれるよりもずっと以前に成し遂げられたセンバツ優勝。部員たちの姿からはレジェンドへの敬意が伝わってくる。

 羨望のまなざしを向けられても山口さんは、ざっくばらんで気さくな顔を見せる。「年代的には、どちらかと言うと、おじいちゃんなんで。16歳とかって孫ぐらいですから」と笑い飛ばす。

 1897年に「私立鉄道学校」として開校された同校は、普通科と鉄道教育を行う運輸科をもつ。その伝統校に84年、山口さんらは甲子園初出場初優勝という歴史を刻んだ。

 優勝投手として注目を集めたエースは卒業後に、阪神にドラフト6位で入団して内野手に転向、ユーティリティープレーヤーとして10年間在籍した。

 95年からは野村克也監督が指揮を執っていたヤクルト入りし、プロ入り最多となる77試合に出場。引退後は監督の勧めで打撃投手、ベンチスコアラーとしてチームを支えるなど、2023年まで計38年にわたってプロ野球界で過ごしてきた。

 ヤクルトを退団後、ゴルフの腕前をいかしてレッスンプロとして新たなスタートを切るタイミングで、要請されたのが母校の野球部コーチ就任の話だった。

 「もうちょっと若かったら、というのはありましたけど、うれしい話なんでね」

 野球部の10年後輩になる豊田浩之監督をサポートすべく、昨年4月1日付からコーチとなり、金曜から日曜日まで後輩たちと向き合っている。

 「僕たちはいい思いをさせてもらった。甲子園をやっぱり目標にやってもらいたい。優勝を目指してやるように言ってます。出場を目標にしたら、スキルが下がりますから。僕から言った方が、ちょっと意識が上がるのかなって思って。人生が変わるようなことも起きるからってことはいつも伝えてます」

 就任当初は戸惑いも大きかった。自身も同じ場所で汗を流してきたが、当時とは練習環境も指導方法も様変わりしている。

 「ギャップはわかってましたけど大変でした。1年見てすごい勉強になりましたね」

 高校時代はエースとして過ごし、プロで投手と捕手以外の全ポジションをこなしてきたユーティリティープレーヤーは、手探りしながら、自身の技術を伝えることに注力してきた。

 チーム状況や選手個々の特性も把握。投手への指導を中心にしつつ、守備のフォーメーションや走塁の見直し、スカウティング活動にも携わる。

 指導する上でこだわるのは意識改革だ。

 「野球の偏差値をもう少し上げろって話はしてます。ノムさんに言われたのは根拠がないとダメだってこと。ピッチャーはなぜそこに投げるのか意図を持たなきゃいけない。バッターを想定して投げろと。ブルペンエースはいらないし、トーナメントで勝たないと」

 寝食を共にすることで世代間の距離は縮まっているようだ。約60人いる部員の半数が生活する寮に週末は宿泊する。

 「一緒にご飯を食べて、いろいろな話をしてます。面白いですよ。高校時代の青春を思い出しますね」

 部員たちの関心の的は、やはり甲子園のことだという。

 「今の子たちはよく質問してきますね。あの時はどうだったんですかとか。こういう感じだったとか話をするんですけど、ウソでしょ!って言いたくなるような話ばっかりだから」と笑う。

 甲子園初出場で快進撃を続け、強豪、PL学園のKKコンビを抑えてのセンバツV。後輩らも興味津々の41年前の岩倉フィーバーはどのようにして起こったのか。山口さんの歩みを振り返っていきたい。

(デイリースポーツ・若林みどり)

 ◇山口重幸(やまぐち・しげゆき)1966年6月24日生まれ。東京都出身。岩倉高校(東京)3年時の84年、センバツにエースとして出場し優勝を果たす。84年のドラフト6位で阪神入り。内野手に転向し10年間在籍。95年からヤクルトで2年間プレーした。通算283試合に出場し41安打、1本塁打、15打点、打率・202。引退後は打撃投手、スコアラーなどを務め23年に退団。24年4月から母校の野球部コーチを務める。

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