【野球】なぜ阪神・大竹耕太郎は打球を捕るのをやめたのか 評論家をうならせた隠れたファインプレー
「阪神3-0ソフトバンク」(21日、甲子園球場)
瞬時の冷静な判断にうなった。初回に3点を奪った直後の二回無死一塁。ワンバウンドで自らの頭上を越えようかという栗原の打球に阪神・大竹はジャンプ。だが次の瞬間、グラブを伸ばしかけた右手を引っ込め、捕るのをやめた。左腕の頭を越えた打球に回り込んだ遊撃・小幡が捕球し、二塁ベースを蹴るように触れ、一塁に送球して併殺を完成させた。素晴らしい大竹のジャッジだった。
二回先頭の中村は小幡の失策で出塁していた。無死一塁。二塁・中野と遊撃・小幡は1球ごとに捕手・坂本が出す球種を見つめ、口元をグラブで隠しながらシグナルを送り合って守備位置や、ベースカバーに入るのはどちらかなどを確認する。当然、その作業が滞りなく行われていることを、マウンド上の大竹も把握している。坂本とのコミュニケーションで球種を選び、投げるコースも設定している左腕は、栗原を打ち取るイメージを描いていた。
打球が跳ね、ジャンプして捕れるかもと思えば、懸命に捕球を試みる。それが野球人。投げて、打って、走って、守る。野球を始めた頃から、誰しもが一生懸命に目の前のボールを追いかけてきた。経験を積み重ねる中で野球人としての資質が鍛えられ、同時に野球脳も養われてきた。
ジャンプして着地するまでの間に大竹は、頭と背中で小幡の位置情報をしっかり捉えていた。ワンバウンドした打球の高さからして、グラブを差し出したとしても届いていなかったもしれない。それほどまでに捕れるかどうか微妙だった打球。仮に捕球できず、グラブの先に当たるだけであれば、ボールは方向を変えて転がり、バックアップに回っていた小幡が逆を突かれ、一塁走者に三塁まで進まれ、無死一、三塁とピンチが広がっていた可能性があった。
阪神OBの中田良弘氏は「あれは冷静な判断だったね。投手出身の立場から言わせてもらうと、ああいう打球に対しては必死に捕りにいってしまうものなんだよ。俺だったら手を出してると思う。本能的に。まして、一塁走者は小幡のミスで出たランナーだし、なんとかミスをカバーしてあげたいという思いがあるからね」とし、続けて「でも逆に捕れずに触ってしまったことで打球のコースが変化して、ひとつもアウトが取れなかったというケースも見てきた。大竹は捕りにいきながらも、『これは捕らなくてもヒットにはならない』、『小幡に任せた方がいい』という判断基準、事前準備ができていたんだと思う。隠れたファインプレーと言っていいんじゃないかな」と解説した。
遠くに飛ばす、速い球を投げる、ダイビングで打球を捕るだけが野球じゃない。超スローボールを織り交ぜて打者を幻惑し、球速差を生かして打者を詰まらせるなど、タイミングを合わさせるものかという老練なテクニック。そして、緊張感に満ちたマウンドで見せた落ち着き払った行動が、古巣・ソフトバンクを完封する12球団勝利につながった。(デイリースポーツ・鈴木健一)





