【野球】二刀流復活目指す大谷翔平で注目の「ハイブリッド手術」人工靱帯の利点と懸念 日本のトミー・ジョン手術の権威が解説
ドジャースの大谷翔平選手が二刀流復活に向けて前進している。打者相手の投球練習を開始するなど、実戦復帰のXデーへ期待は高まる。2023年途中に右肘靱帯を損傷し、同年9月に自身2度目となる手術を受けた大谷選手。執刀医が明かした「ハイブリッド手術」とはどのような手術だったのか。日本のトミー・ジョン手術の権威である慶友整形外科病院(群馬県館林市)のスポーツセンター長である古島弘三医師に聞いた。
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大谷選手の執刀医でドジャースのチームドクターを兼任するニール・エラトロッシュ氏は24年3月にAP通信のインタビューに対して、大谷選手が受けた手術について「腱の移植と人工靱帯を用いての補強を一緒に行う『ハイブリッド方式』だった」と説明した。
日本ではまだなじみの薄い「人工靱帯」を使った「ハイブリッド」手術を、古島医師は自動車に乗った際に体を守るシートベルトに例えた。
「ハイブリッド手術は、トミー・ジョン手術をした上に、補強として人工靱帯=インターナルブレースを入れる方法で、(移植した)腱に負担がかからないよう、止めてくれる補強的な役割をする。シートベルトで言えば、腰の部分がトミー・ジョン手術としたら、インターナルブレースは、肩からのシートベルト」だという。
日本ではトミー・ジョン手術で再建された靱帯が再断裂するケースは極めてまれだというが、アメリカでは珍しくはないという。「体が大きくて、球速が速ければ、それだけ肘に負担がかかる。強度を増さないといけないということで、人工靱帯を使ってみようとなっていった」と合わせ技のハイブリッド手術が普及した背景を語った。
大谷選手はメジャー1年目の18年10月に靱帯を再建するトミー・ジョン手術を受けており、23年は2度目の手術だった。
古島医師はエンゼルス時代の二刀流の過酷さを振り返り「手術になったのは仕方がない。疲労がたまらないわけがないし、投手だけの選手、打者だけの選手から見ても驚くことをやっていた。しかもスイーパーといった変化球をあれだけ多く投げてるのだから」と超人であるがゆえの負担の大きさに言及する。
さらにメジャーで23年から導入された投手の投球間の時間制限「ピッチクロック」についても「試合時間の短縮にはなるんでしょうけど、疲れた状態で一息つけずに、すぐ投げないといけないので、疲労の蓄積はかなりあったと思う。投手にとっては酷使になる」と指摘。それ以外にもマウンドの硬さ、滑るボールへの対応、登板間隔などを肘への負担を増加させる要因として挙げた。
人工靱帯を使用した手術のメリットとして、小さい傷で済むこと、復帰の早さがあるという。ただ、元々「アメリカで高校生や大学生の、それほどひどくない損傷に人工靱帯だけを当てて、早く復帰できると始めた」側面があるという。
また、人工物を人体内で使用する長期的な検証ができていないことへの懸念についても言及。
「(肘以外の)他のところでも使ってるものなので、大丈夫なんですけど、動くところに人工のものを使っても良いかという疑問は誰でもずっと持っている。摩耗して骨が削れたり、靱帯の部分に影響があるかもしれないがまだ分からないですから」
かつて膝の靱帯再建術で人工靱帯がもてはやされたことがあったが「人工物で硬いから、骨が負けたりする。切れたら再手術は相当大変なので膝に関しては廃れた」と解説する。
大谷選手がハイブリッド手術を受けたことで、古島医師のもとには「大谷選手がやったインターナルブレースを自分にも使ってください」と希望する高校生が現れたという。しかし、古島医師は今後、肘の手術に際してインターナルブレースを使うことには否定的なスタンスだ。
「体格の大きなプロ野球選手が来た時に(トミー・ジョン手術に)併用してやるかどうかがあるかもしれないが、今までの経験の中でインターナルブレースを追加する必要性を感じたことがない」と話した。(デイリースポーツ・若林みどり)