【スポーツ】2度の大手術を乗り越えた宇良が気づいた自分らしさとは…

 大相撲の元幕内で希代の人気業師、宇良(28)=木瀬=が16場所ぶり関取に返り咲いた。西幕下5枚目の秋場所で6勝1敗を残し、再十両が決定。17年秋場所、右膝の大けがを負い2度の大手術からカムバック。11月場所(11月8日初日、両国国技館)では18場所ぶり関取として土俵に上がることになる。

 2度目の手術後、4場所全休。再び気の遠くなる長期リハビリから復帰を決めた昨年11月の九州場所前、宇良の言葉が印象に残る。

 幕内で活躍する小兵の炎鵬(宮城野)の話にもなり、「あれで通用するなら体重を増やさなくても良かったやん」と、もどかしい心境を吐露していた。

 適正体重に関しては力士それぞれ考え方があるだろう。宇良にとっては体重を増やことに対する執念のようなものを感じてきた。

 成長期が遅れたため、中学、高校と身長も伸びず、体重も増えず当然、補欠。同学年には関脇御嶽海(出羽海)、幕内北勝富士(八角)、秋場所、新入幕で大暴れした翔猿(追手風)がいるが、次元が違った。「高校生の時とか僕はあまり試合に出ることはなかった。当時の岩崎君(翔猿)や大輝君(北勝富士)が戦っているのを見ている側なので。今も並びたいとは思わない」とライバルとか考える存在ではなかった。

 当時は相撲を取れば小学生にすら負けた、という。成長の遅さに母と病院に行き、診断を受けたこともある。

 関学大でもプロなど考えもせず、教員を目指した。大学3年時、体重は80キロまで増え、中村大輝(現北勝富士)に勝ち、世界大会を制すなど次第に注目もされる。そして転機となったのが軽量級65キロ以下の試合に出るため減量を行う自身に矛盾を感じたことだった。

 食べても太らず、相撲に負け続けた人生。増やすだけ増やしたらどれだけ通用するのか。未知の角界への挑戦を決断させた。

 奇手“居反(いぞ)り”の使い手として関学大からプロ入り。多彩な技とスピードを武器にスピード出世した。しかし17年秋場所、右膝前十字じん帯を断裂し6場所連続で休場。昨年初場所、幕下まで戻ったが同カ所を再び断裂。前回同様、腱の再建手術を行った。

 十両復帰が決まった9月30日、宇良は電話取材に応じ、これまで明かさなかった胸の内を語った。

 1度目の手術後、押し相撲に徹する取り口に変えるため、体重を増やした。宇良にとっては食事はトレーニング以上に過酷だった。

 「一時期150キロまで上げて動かないどっしりした相撲を取れたらなと。自分は何もかも犠牲にして食べて増やしていたつもりだったのに、怠惰で太ったと思われて、自分は食べるのも苦手なので結構、無理してやっていた」。周囲からは特長のスピードを殺すとの指摘もあった。

 それでも増やすことで強くなるというのは幼少期からの信念。「減らしたい思いは全くなかった。せっかく身に付けたものをみずから減らすことは…」と必死に食べた。

 一方で150キロを保つ食生活は限界だった。自然に約20キロがあっという間に減った。「むしろ増やしたいのに減るような感じ。150キロでスピーディーに動けるのが理想やったんですけど。今でも増やして動ける方が何よりなんで。周りから適正体重あるやろと言われるけど、あくまで気持ち的には増やして動ける体にしたい」。今も圧力負けしない150キロの動ける体を追い求めている。

 2度の再起ロードは体重同様、宇良に相撲の原点を思い起こさせた。1度目の負傷後、「体重を増やして2度とけがしないようにという相撲を心がけた」と言う。しかし、結果的に失敗。「1回目は自分に合ってないことをしようとしたことが一番よろしくなかったのかな」と気付いた。

 2度目の負傷後は自分らしさに立ち戻ることを最優先した。「押し相撲だけでは自分の限界がある。2回目からはそういう押し相撲とかけがしないことより、自分の相撲を取り切ることに徹していた。そっちの方が動けたし、もしそれでけがをしたらそこまでで良いかな。けがを恐れることなく、けがしたらしたで良い。自分らしい相撲で上がっていきたい。自分らしい相撲を出して終わったらその方が気持ちいいかなと。それではけがするよ、と言われてもけがしても良いですと」。退路を断ち、選んだ道に後悔はしない。

 秋場所優勝した新大関正代(時津風)はかつて宇良の相撲を「土俵際、もう一つ空間がある」と表現していた。土俵際の驚異的な粘りからの逆転劇も宇良の真骨頂だ。

 「年齢的には捨て身にしないとダメ。(土俵際は)あきらめなさいとよく言われますけど、際(きわ)になると勝負どころなんで簡単に土俵を割るなんてことは僕には多分できないので、粘れる限り粘ろうと思います」と腹はくくった。

 炎鵬、石浦(宮城野)、照強(伊勢ケ浜)、翔猿(追手風)ら小兵が相撲界を沸かせる中、“元祖”は約束。「全然居反りも出しますよ。封印してない。バンバン出しますよ」。相撲ファンをワクワクさせるアクロバット相撲が十両、そしてまた幕内へ帰ってくるのが待ち遠しい。(デイリースポーツ・荒木司)

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