【野球】同じ年のスター筒香を取材した1年 球場の空気を支配する瞬間

 打球がフェンスを越えれば全てのプレーが止まる。その瞬間、ダイヤモンドを一周する選手が球場の空気を支配するのだ。記者が子どもの頃に憧れた選手は、とてつもないホームランを放つ巨人の4番、松井秀喜だった。

 当時の多くの子どもたちと同様に「ゴジラみたいになりたい」と思っていたが…。なれるはずもなく、野球部で背番号をもらえずくすぶっていた高校2年生の時、本当に「ゴジラ」と呼ばれている同じ年の選手が横浜高校にいるのを知った。

 阪神担当からDeNA担当に変わった昨年、筒香を1年間取材した。初めて対面したのは春季キャンプのある日の朝。室内での早出練習を1人で見ていたところ、打撃練習を終えて出てきた筒香が目を合わさず無言で栄養ドリンクを差し出してきた。

 ありがとうございます、と受け取った。言葉を続けようと思ったが、すぐにきびすを返して立ち去った。気まぐれだったのか、早出取材をねぎらってくれたのか、真意は分からなかったが、ミステリアスな雰囲気に好印象を持った。

 だが、その後は全く距離は縮まらなかった。「実戦で必要な技術だから」という逆方向打ちの秘訣(ひけつ)、「セ・リーグは変化球が多いので」という緩急への巧みな対応力…。マンツーマンではどんな質問にも感情を押し殺した表情で定型文のようなコメントを発した。自分の力量のなさを痛感しつつ、どんな時も取材に応じる人柄に感謝していた。

 そんな中、唯一無表情以外の顔を見せたことがあった。7月の広島戦、外角の直球でカウントを取られた直後、ほぼ同じコース、同じ高さのチェンジアップを中堅フェンス直撃の二塁打にした。狙い打った感じではなさそうだった。

 翌日の練習前。変化球打ちの極意を探ろうとグラウンドに出てきた筒香に、昨日の二塁打、あれくらいじゃ崩されないんですか?と聞いた。一瞬、柔らかい笑みを浮かべたが、すぐさま元通り。突破口を見つけられそうだと思ったが甘かった。

 深く取材はできなかったが、筒香が描く力強い軌道は確かにスタジアムを支配していた。今後はプロ野球選手の夢破れた同年代として夢を託し、応援をしていきたい。コロナウイルスが収束した後、メジャーの舞台で放つ第1号が楽しみだ。(デイリースポーツ・山本航己)

関連ニュース

編集者のオススメ記事

オピニオンD最新ニュース

もっとみる

    ランキング

    主要ニュース

    リアルタイムランキング

    写真

    話題の写真ランキング

    注目トピックス