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【競馬】“紅”の血を後世へ-松下厩舎の礎を築いたカラクレナイ

 可憐かつタフネスな活躍を見せた栗毛馬が、静かにターフを去った。17年フィリーズレビューを制したカラクレナイが、2月6日付けで競走馬登録を抹消。北海道千歳市の社台ファームで繁殖馬となることが発表された。

 松下武士調教師にとっては、厩舎の平地重賞初制覇を果たした功労馬。「2歳の秋から6歳のタイムリミットまで、大きなケガもなく、ずっと一線級で走ってくれた。なかなかできないこと。頭が下がる思いです」。通算26戦4勝。厩舎の屋台骨を支えた孝行娘に感謝の思いは尽きない。

 一番の思い出は、やはり17年フィリーズレビュー。1番人気レーヌミノルが“まくり差し”を決めかけたところを、4角14番手から末脚一閃。大外を豪快に突き抜け、歓喜のゴールへ飛び込んだ。「あの時は、ミルコの調子がすごく良くて。確か、日曜のメインレースを4連勝していたと思います。で、ウチの馬で5連勝。彼のいい流れに乗って勝つことができましたね。開業した年に、小野先生から譲り受けたオースミムーンで障害重賞を2つ勝たせてもらいましたが、2歳から育てたカラクレナイは、いわばウチの厩舎の“一期生”。喜びもひとしおでした」。続く桜花賞は4着に敗れたが、持ち味の末脚をフルに発揮。世代トップクラスの実力を証明して見せた。

 そして、これまでで最も苦い思いをしたのもまた、カラクレナイの一戦だと言う。17年のNHKマイルC(17着)は「もう、ガックリのひと言でした」と表現するように、レース後は相当落ち込んだ。「G1で1番人気の支持を受けることなんて、そうそうありませんからね。それが、ああいう結果になってしまって…。あまりのショックで、あの日はどうやって家に帰ったのかも覚えていないんです(苦笑)。でも、いい経験をさせてもらいました」。競馬の“怖さ”を肌で感じた一戦だった。

 そのNHKマイルCで歯車が狂ったのか、その後のカラクレナイは長く勝ち運から見放される。次に勝利の女神がほほ笑んだのは、19年7月のバーデンバーデンC。前回の勝利から、実に2年4カ月の歳月がたっていた。「4歳の頃には調教でもすごく引っ掛かるようになって。自分自身で、レースの幅を狭めてしまった感じがしますね。またあの馬、かみ合わせが悪いというか、本当に外枠ばかり引くんですよ。だから、外枠が有利なアイビスSDを使ってみたんですけど、そうしたら内枠が当たるという…(苦笑)。そういう悔しい競馬が続いていましたから、あのバーデンバーデンCはめっちゃうれしかったです。あの時、僕は北海道にいて、車で移動中だったんですが、車内のテレビを見ながら、もう“ほえて”ましたよ。隣に馬主さんもいたんですけどね(笑)。やっぱ、声出ちゃいますよ」。

 その後も堅実な走りを見せ、2月のシルクロードS(11着)がラストランに。次の仕事へ向けて、北海道へと旅立った。「祖母のレッドチリペッパー(重賞2勝)に走る印象を持っていました。母のバーニングレッドはカラクレナイを産んだ後に亡くなってしまったようで。なので、カラクレナイは乳母に育てられたと聞きました。よくこの血がつながったと思います。産駒には、母のスピードが伝わってほしいですね」。名牝ローザネイから繁栄した“バラ一族”のように、細い糸をつないだ“紅”の血が、脈々と後世に受け継がれることを願いたい。

 カラクレナイとともに戦った経験を糧に、この春、松下師はさらなる高みを目指す。「フィリーズレビューで優先出走権を獲りに行ったカラクレナイとは違い、本番を見据えながら仕上げられる分、レシステンシアの方が状況はいいですよね。ウチの厩舎としては、ディーパワンサが4着に負けた(16年)阪神JFを、次に訪れた機会に獲ることができました。そして、カラクレナイも桜花賞は4着でした。同じ流れで、2度目の挑戦で1着といきたいですね。レシステンシアで、これまでの全部を取り返したいです」。

 まずは“ケガなく、無事に”。そして“息の長い活躍を”が、松下師が掲げる理想像。現役時代は勝ち運に見放されたカラクレナイだが、一期生として模範を示し、厩舎の礎を築いた。紅いバトンをつないだレシステンシアには、勝利の女神が寄り添っている。自身が果たせなかった桜花賞制覇の夢を託し、北の大地からそっと見守っていることだろう。(デイリースポーツ・松浦孝司)

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