【野球】阪神は育てながら、勝つ 新コーチが秋季練習で出した色

 観客のいない甲子園球場に、活気ある声や笑い声が響く。阪神は28日、秋季練習を打ち上げた。22日から始まった練習の最後は、走り込みのメニューだ。新任の北川博敏打撃コーチが先頭。キツい練習が始まる選手に先立って、トレーナーと競争する形で場を和ませる。そこに矢野燿大監督の声が飛んだ。

 「(北川)ペイのが速いぞ、いけ!!」

 続いて上本博紀内野手の相手役として、走りだしたのは新井良太打撃コーチ。また、場が和む。こうして秋季キャンプ前、1週間の全体練習が幕を閉じた。チームは30日に高知・安芸市に移動し、31日から秋季キャンプが始まる。

 その答えは来シーズン以降に、結果として出るだろう。だが、シーズンを通して明るく、楽しく、前向きに1年間戦ってきた。そのスタイルにブレがないことが、選手にとって確かな指針になる。新任の井上一樹打撃コーチも「オレはみんなの兄貴であり、オヤジであるよ」と、初日から精力的に動いていた。

 近本光司外野手には「お前の足を持ってすれば、3割が最低条件だよ」とハッパ。高山俊外野手には「近本のパンチ力は見習わないといけない」と、同じ外野を守る後輩選手の名前を出して競争心をあおった。そんな高山には24日、ロングティーを打ちながら付きっきりで指導した。

 「名前は高山やけど、まだまだ“低山”や」、「ずっと見ててやらないとすぐ“抜け山”になる」

 自称「コミュニケーションモンスター」として、愛のあるイジりをちりばめながら、2016年新人王の背中を押す。高山は28日、下半身の張りを訴え、屋外練習を取りやめた。秋季キャンプに支障はない見込みだが、裏を返せばこの時期の下半身の張りは、覚悟を持って二人三脚で振り込んだ証しでもあるだろう。

 「自主性」を重んじてきたチーム。言葉が一人歩きすれば、放任といった非難や、練習量が少ないという誤解を招く。ただ、プロとしての自覚、自立を促す方針は、シーズン終盤の6連勝や、CSファーストSの戦いにもつながった。今後、目指すべき野球の一端を示したともいえる。

 当然、プロは結果の世界である。リーグ優勝した巨人との「8勝、6ゲームの差」を埋めるのは、簡単なことではないだろう。だが、ドラフトでは1位から、5人連続で高校生を指名した。1966年度の第1次以来53年ぶりのことだ。育てながら、勝つ。そんなブレないチーム方針に、矢野監督や、球団の覚悟が見える。

 井上コーチ、北川コーチは、どんな新風を吹き込むのか。秋は、穀物や果物などの収穫が多くなる季節であることから、実りの秋と表現される。まき続けている種を、来秋の収穫につなげたい。ブレない球団方針の先に、15年遠ざかる頂点が待っている。(デイリースポーツ・田中政行)

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