【スポーツ】メルカリが経営権取得の鹿島 新時代のJクラブのロールモデルへ

 サッカーのJ1鹿島が7月30日に大きな転換期を迎えた。同日、フリーマーケットアプリ大手のメルカリがクラブの株式61・6%を取得し、筆頭株主となることが発表された。

 前身の住友金属サッカー部として、そしてJリーグが開幕しても、住友金属が新日鉄と合併しても、クラブの運営母体であった日本製鉄が経営から撤退。クラブよりも歴史の浅い新進気鋭のIT企業にかじ取りを委ねることになった。国内外主要タイトル20冠を獲得した名門の運営母体の変化には、Jクラブを取り巻く時代の移り変わりを感じた。

 どんなスポーツ、どんなクラブ、どんな選手にも、連綿と続くキャリアの中でターニングポイントを迎える例は多い。鹿島にとっては、それが今だったということだろう。

 30日に都内で行われた鹿島、日本製鉄、メルカリの三者合同会見。出席してまず感じたのは、クラブの筆頭株主が住友金属の系譜となる日本製鉄からメルカリに移ることは、決して「買収」や「身売り」という言葉からは離れた場所で出された決定ということだ。

 確かに、企業の経営権を取得することが可能な株式比率を他企業が取得することは「買収」という考えもできるし、クラブ側からすれば、金銭(この場合は株となるが)と引き替えに、組織をそのままの形で移譲することは「身売り」という表現ができるかもしれない。

 ただ、鹿島はJ1の中でもトップクラスの売上高を誇るクラブで、日本製鉄も同じく売上高は4兆円規模、営業利益で言えば1000億超という超巨大企業だ。クラブの資産価値というベクトルとは違う物差しになるが、株式譲渡の取引価格が約16億円だったことを考えても、財政面でクラブ、旧経営母体が困窮していた末の結果と考えるには無理があるだろう。

 また、次なる筆頭株主となるメルカリ・小泉社長は「(クラブの)伝統やフィロソフィー(哲学)は変えずに、テクノロジーの部分で改革していきたい」と語り、さらに「オーナー企業となるよりも、これまで通りパートナーという印象がある」とした。

 一方、クラブの経営母体から撤退する形となった日本製鉄側は、経営権を渡す理由について、スポーツ映像の配信に関する英・大手DAZNによる参入を機にした、昨今のJリーグを取り巻く環境の急変を要因の一つに挙げ「プロスポーツはビジネスとして収益をあげることが大事で、企業スポーツとは違う」(日本製鉄・津加執行役員)とし、「鹿島が世界と戦うためにクラブ価値を高めることは至上命題。ファン層の拡大や売り上げを上げていく中で、私たちではなく新たなパートナーを迎え入れることをわれわれもプラスとした」(同)と語った。

 1993年のJリーグ開幕以降、Jクラブの最重要課題は“存続すること”だったように思う。99年に横浜Fがチームとして消滅してしまって以降、その傾向はさらに強まり、大分や鳥栖が存続危機となったこともその流れに拍車をかけた印象だ。だからこそ、盤石な経営規模を持つ企業による安定した、サポーターにとっては安心感のあるクラブ運営が求められていたと思う。

 だが各クラブの営業努力によって徐々に状況は変わり、何よりDAZNの参入を契機に、リーグから各クラブに対してそれまで以上に分配金を与えることが可能となった。「共存」から「競争」へとリーグそのものが新たな変革を打ち出している。

 開幕から26年目にして、リーグ8度の優勝を筆頭に国内の主要タイトルを手にしてきた鹿島は、2018年にアジア・チャンピオンズリーグを制し、悲願のアジア王者となった。そんなクラブの“次のステージ”を模索する中で、経営母体を安定型の大企業から時代の変化によるニーズに合わせて成長していった新しい企業へと変更することは、クラブとして大きな挑戦にも映る。

 少なからず、チームの成績という要素に経営面の数字が左右されるプロスポーツクラブの運営は、一筋縄ではいかない。鹿島は継続性によって輝かしい成績を残してきた面もあり、スピード感を大事にする現代型の企業にかじ取りを託すという不安もある。ただ、各クラブの“永遠の課題”とも言える「世代交代」について、クラブとしての哲学を明確に、そして先見性を持ちながらきっちりと推し進め、大きな浮き沈みもなく多くのタイトルを獲得してきたからこそ、これまでにない形での成長を期待したくなる。

 リーグをけん引してきたこれまでのように、新たな時代を迎えたJクラブのロールモデルとなることを願いたい。(デイリースポーツ・松落大樹)

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