【競馬】デビュー22年目の中谷騎手が自身初の重賞制覇へ…盟友と挑む

 今週唯一のJRA重賞として開催される第55回函館記念(14日・函館競馬場)。その勝利を目指し、万感の思いで北の大地に乗り込む男がいる。“盟友”ステイフーリッシュ(牡4歳、栗東・矢作芳人厩舎)でレースに挑む中谷雄太騎手(39)=栗東・フリー=だ。

 実戦で同馬に騎乗するのは、18年共同通信杯(10着)以来10戦ぶり。「ずっと乗りたいと思っていました。ようやく戻ってきたなという気持ちです。矢作先生や牧場、関係者の方々が、いっぱいジョッキーがいるなかで僕でと言ってくださった。その思いに応えたいですね」。支えてくれた人への感謝の気持ちを胸に、決戦に臨む。

 ともにデビューからクラシックを夢見た相棒だった。「男馬で来年の春が楽しみとか、一緒にダービーに行きたいと意識したのは初めてでした」。見事に新馬勝ちし、2戦目に挑んだG1のホープフルSも3着と健闘した。年明けの共同通信杯10着後、反撃を誓って臨んだ春。しかし、18年4月8日、福島5Rで中谷騎手を悲劇が襲った。騎乗したルートロアーで落馬。頸椎(けいつい)と胸椎の骨折で戦線離脱を余儀なくされた。

 「共同通信杯のあとも乗せてもらえる予定だったんですが…」。パートナーは、藤岡佑介騎手を背に京都新聞杯で重賞初制覇。レースは、病床で見届けた。その後は横山典弘騎手でダービーにも挑戦(10着)。「ナマで見ておきたい思いが強かった」と医師の許可を得て、東京競馬場に向かった。首にはコルセットという痛々しい姿だったが、その走りを自らの目に焼き付けた。

 「復帰するときはこの馬に乗りたい」。相棒の奮闘を励みに、強い思いでリハビリに取り組む日々。8カ月の休養を経て、12月にようやく実戦復帰した。自らが仕事の拠点とする矢作厩舎の管理馬だったこともあり、復帰後は、調教のパートナーとしてともに汗を流す日々が始まった。

 なかなか実戦で自分の元に戻ってくることはなかったが、「佑介もいい競馬をしていましたしね。僕はしっかり自分の仕事をして、いい状態で出走できるようにしてきたつもりです」と調整で手を抜くことはなかった。「普段の調教やレースで、一鞍一鞍、一生懸命に乗る。そうやって真摯(しんし)に競馬に向き合ってこそだと思うので」。それが、中谷の競馬人としての誇りでもあった。

 そんな姿を応援する声は多い。同馬の担当でもある矢作厩舎の藤田俊介助手は「雄太に重賞を獲らせたい」と意気込む1人だ。「そうやって言ってもらえるのはありがたいし、ジョッキー冥利(みょうり)に尽きる。幸せだと思いますね」と中谷。背中を押してくれる人々の期待に応えるためにも、全身全霊の騎乗で挑むつもりだ。

 復帰当初、首の可動域は完全でなかったが、「もう大丈夫」と自らの体に不安はない。

 「今回は人気もあると思うし、いい意味のプレッシャーは感じています。ただ、いい意味で力を抜くことも必要。普段通り、馬の全能力を引き出せるように集中したい。その先に、きっと重賞制覇はあると思うので」

 再び巡ってきたチャンスにも、自然体を崩すことはない。病院でリハビリの日々を過ごした夏から1年。今年の函館伝統のG3は、自身初のタイトル奪取に挑むデビュー22年目のベテランの戦いにも、ぜひ注目してほしい。(デイリースポーツ・大西修平)

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