【スポーツ】新時代の到来予感させる相撲界 土俵に残るベテランの使命

 大相撲は平成の元号では春場所(3月10日初日、エディオンアリーナ大阪)でいよいよ最後となる。関脇貴景勝(22)=千賀ノ浦、小結御嶽海(26)=出羽海=ら若き力が台頭し、新時代の到来を予感させる中、踏みとどまるベテランの執念は見る者を熱くする。

 初場所で19年ぶり日本出身横綱の元稀勢の里(32)=現荒磯親方=がついに力尽き、元関脇豪風(39)=現押尾川親方=も続くように、土俵を去った。

 心身ともギリギリの状態で土俵に上がるベテランにとって、嫌でも引き際を考えさせられる。現役関取最年長、十両安美錦(40)=伊勢ケ浜=は先場所、引退の連鎖に飲まれるように沈んでいった。

 1勝1敗で迎えた3日目から何と11連敗。04年春場所の10連敗を上回る自己ワースト。「こんなの初めて。どうしていいか分からない」と、23年目にして味わう泥沼からの脱出にもがき続けた。

 8日目はまだ余裕があった。引退した元稀勢の里がスーツを作るとの話題に「楽しそうだね。いいなあ」と軽口。豪風が引退した10日目には「辞めたくて辞める人はいない。そうやって代わっていくものだけどいなくなるのはさみしい。まだできているのはありがたい。しっかり土俵に上がる」と発奮した。

 しかし、結果は出ず、日に日に相撲内容も一方的な負けになっていった。アキレス腱、膝、下半身はけがだらけ。「足が出ない」、「あきらめないで泥臭く」、「最後までやると決めたので」-などと、悲壮感漂うコメントを日々、重ねた。

 東十両3枚目の番付で十両残留には2勝がノルマ。だがあと1勝が遠く、復調の兆しも見えない。いつ引退を決断してもおかしくない状況だった。この崖っぷちで百戦錬磨の勝負師は折れていなかった。

 14日目、荒鷲が相手。左に飛んで右上手をつかむと、頭を付けてジワリと圧力。上手で振って最後はこん身の投げで仕留めた。

 「体じゃなく気持ちでいく」と腹をくくれるのが強さ。連敗中は「体調が悪いわけではないのに不思議な感覚でストレスがたまった。毎場所覚悟は決めて取っているから不安はないけど、何でこう動いてしまうのか。してはいけない方ばかりしてしうまう。そういう悩みがあった」と、苦悩し続けていた。

 ここで重みのあるコメントができるのが人気業師たるゆえん。支えになったことを問われると「辞めていく人がね、稀勢の里、豪風も。向こうは何とも思ってないけど背負ってやろうと。背負って土俵に上がろうと。重圧を背負って稀勢の里、豪風の思いを勝手に力に変えて上がっていた」と土俵に残る者の使命を口にした。

 関取20年目。「勝つのはいいもの」と大きな1勝。千秋楽に3勝目を挙げて十両残留をダメ押しした。毎場所、進退を懸け、そして生き残った。「何で相撲を取ってるんだろ。こんな状態でも相撲を取りたいと思うんだから不思議。それがあるからこんな状態でもやっている」。志半ばで去った戦友らのためにもまだ戦うのだ。

 安美錦だけではない。先場所、幕内では嘉風(36)=尾車=が3勝12敗と苦しんだ。37歳になる春場所では底力の見せどころだ。3月11日に34歳になる白鵬(宮城野)、33歳の鶴竜(井筒)と両横綱も衰えが隠せない。

 一方で13勝を挙げて初優勝した関脇玉鷲(片男波)は34歳。35歳の豊ノ島(時津風)は幕下2年の生活を乗り越えて十両で2場所連続の2桁勝利。春場所の幕内返り咲きを濃厚にしている。

 世代交代の勢いは止まらない。ただ、歴戦の猛者たちの生き様は晩年だからこそ輝きを放っている。“アラフォー”のおっさん記者としては、そのあきらめない姿に勝手に力をもらっている。(デイリースポーツ・荒木 司)

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