【野球】ヤクルト・近藤 誰よりも“投げる”誓い果たした17年目の初タイトル

 投げた。誰よりも投げた。今季12球団最多の74試合登板は球団タイ記録、35ホールドと7勝を含む42ホールドポイントは球団新。最優秀中継ぎ投手のタイトルを獲得し、27日のNPBアワーズでは「まさかこういうステージに上がれるとは。僕が本当に立っていていいのかな」とはにかんだ。ヤクルト・近藤一樹投手は、35歳にしてキャリアハイの数字を残した。

 「投げるのが仕事。抑えるのが仕事ですけど、打たれるのも仕事。僕は53敗しているピッチャーですから」。よく冗談めかして自虐的に語る言葉の中に、プロの世界を生き抜いてきた矜持(きょうじ)がにじむ。通算50敗以上もできる投手は、どのチームにも何人もいるものではない。

 春季キャンプでの練習前のアップ。温暖な沖縄、しかも屋内練習場で、ただ一人はめていた手袋が気になった。「潔癖症なんですよ」と笑いながら「何か落ちていたりして、万が一があったら困るので」と商売道具の手に細心の注意を払う姿には、感心させられた。

 オリックス時代は4年連続で右肘を手術。育成選手も経験した。1280日ぶりと1411日ぶり、2度も1000日以上のブランク勝利を挙げている。自ら学んで身に付けた体のケアやトレーニング、動作解析、栄養学などの知識は深い。指にできたマメの処置法を、スタッフが尋ねてくることもある。

 近藤はリリーフに転向後、いわゆるウエートトレーニングはしていない。トレーニングは、ほぼ自重を使ったものだ。「体全体が連動するように鍛えないといけない。フォームの違いはわかっても、なぜそうなっているかを言える人って、少ないんですよ」。度重なる故障を経験して、確立したメソッド。細身の体で強打者に真っ向勝負を挑めるボールは、そんな背景があってこそ投げられる。

 全く痛みを抱えずシーズンを戦える選手などいない。CS争い佳境の9月、近藤は「クラシックカーみたいなもんですよ」と自分の体を例えた。全くノースローの日は作らず、キャッチボールなどの“慣らし運転”は必須。休んでしまえば、エンジンをかけた時に肩肘が違う感覚を訴える。「毎日投げている方がいい」と言って、マウンドに立ち続けた。

 今年3月1日、開幕前の明治神宮参拝。奉納した絵馬に、近藤はただひと言“投げる”と記した。「まさかここまで投げられるとは。チームメートや投げさせてくれたベンチ。まわりの人に支えてもらっての数字」。誰よりも“投げた”シーズン。誓いを果たした先に、プロ17年目の初タイトルがあった。(デイリースポーツ・藤田昌央)

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