【スポーツ】新日本プロレスがV字回復した要因とは~女性ファン獲得、海外視野に動画配信

新日本プロレスの頂上決戦で激突するケニー・オメガ(左)とオカダ・カズチカ。新たなファン層を熱狂させた
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 女性ファンの急増など、近年、プロレス業界の風向きが変わっている。その中での象徴的なトピックスは、新日本プロレス(以下・新日本)のV字回復だろう。2000年代の低迷期から、今年7月期の業績では過去最高を21年ぶりに大きく更新した。6月には、玩具大手タカラトミー社長を務めたオランダ国籍のハロルド・ジョージ・メイ氏が社長兼CEОに就任。その躍進の背景を探った。

 新日本は1972年に旗揚げ。80年代まではテレビ朝日系“金曜夜8時”の中継でお茶の間に浸透。90年代はドーム興行がヒット。97年の売上高は39億3000万円で、この数字は昨年まで最高記録だった。00年代に入るとPRIDEなどの格闘技ブームに押されて低迷。05年度の売上高はピーク時の3分の1近くとなる13億6000万円に落ち込んだ。

 その苦闘の時代に新日本の現場責任者を務めた“黒のカリスマ”蝶野正洋は振り返る。

 「俺らが入る前から新日本では経営者側に金銭トラブルがあった。他の事業に手を出してつぶれそうになったり。テレビのゴールデンタイム中継があり、年に数回ドーム興行もやっていたのに、公表された売上高が少ないと感じさせられた。今年、噴出したスポーツ競技団体のトラブルは、協会の一握りのトップが権力を誇示しておかしくなったことにあるわけだが、かつての新日本もそうだった」。蝶野はV字回復の要因について「第三者に経営が渡ったことで、お金の管理ができるようになった。普通の会社になったということだろう」と指摘した。

 その通り、最大の転機は12年にカードゲーム会社「ブシロード」が新日本のオーナーになったこと。経営権を掌握する直前の11年の売上高は11億4000万円と過去最も低い数字だったが、17年7月期の売上高は38億5000万円に。今年7月期の売上高は過去最高をはるかに上回った。経営面での無駄を省き、メディア戦略でネット社会におけるファン獲得に力を入れ、女性層など新しい観客層を獲得したことがその要因として挙げられる。

 メイ社長は「12年がターニングポイント。宣伝広告を大量に投下し、ツイッターやユーチューブなど当時まだ新しかったツールをビジネスに積極時に取り入れて、ファンを巻き込みながらプロレスを盛り上げてきました。14年には『新日本プロレスワールド』という動画配信サービスが開発され、海外のプロレスファンや会場で観戦できない遠方のファンも取り込むことができるようになり、成長ポテンシャルが大きく広がった」と分析した。

 動画配信サービスの会員数は2018年1月時点で約10万人だが、メイ社長は「外国からの会員は約5割となっています」と明かす。地域的にはプロレスが根付いた北米が多いという。同社長は「改善の余地がまだまだある。コンテンツは試合中心なので、もっとドキュメンタリーとか、選手のインタビュー、会場の準備をするスタッフといった試合以外の動画をお見せしたい。その英語版も開発したい」と意欲的だ。

 女性ファンの獲得も大きい。“プ女子”という言葉が目新しくなくなったほど定着。メイ社長は「女性客は約4割。会場によっては半数近くが女性の時もあります。年齢層は幅広い。女性ファンが増えると会場が明るく入りやすい雰囲気になり、家族連れのお客様も足を運びやすくなる。今後は子供さんも増やしたい」と意気込む。

 なぜ女性に受けるのか。同社長は「新日本には筋肉美で若くてかっこいい選手も多く、また多くの選手がツイッターやインスタグラムを利用しており、試合以外の様子も発信されて身近に感じられるからだと思います」と分析。リングだけでなく、オフも含めて選手自身がSNSで情報を発信する時代なのだ。

 9月30日には新日本のロサンゼルス大会が控える。19年4月6日にはニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデンで米団体RОHとの興行を予定。約1万6000席のチケットは発売日に即日完売した。メイ社長は「今年7月のサンフランシスコ大会は6000強の動員数で、新日本の海外興行では過去最高、日本の団体でも最高ということでしたが、来年はそれを大きく上回ります」と海外興行にも力を入れる。

 動画配信と興行という両輪での世界進出。女性など新たなファン層を開拓したメディア戦略。00年代前半に取材していた記者には隔世の感がある。

 (デイリースポーツ・北村泰介)

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