何も起こらないようで、確実に何かが起こっている『ばけばけ』 錦織の不在、そして…作家・ヘブンの「スランプ」をどう描いたか

連続テレビ小説『ばけばけ』(NHK総合ほか)第20週「アンタ、ガタ、ドコサ。」からは「熊本編」がスタート。トキ(高石あかり)たちの熊本での新生活が描かれたが、なんというか、「何も起こらない」週だった。しかし、一見何も起こらないようでいて、実は水面下で着々と何かが起こっているのが『ばけばけ』だ。

遡って、トキがヘブン(トミー・バストウ)の女中を始めた第8週「クビノ、カワ、イチマイ。」も、石あかりがインタビューで「『ばけばけ』は途中から何もなくなる」と語っていたほど、一見「何もない」週だった。

しかし第8週は「スキップ」という「非言語によるコミュニケーション」をフックに、トキとヘブンが少しずつ互いを知っていくという、実は重要なターン。自分が生まれて初めて一個の人間として認められたというトキの「心から湧き出る喜び」が、金曜日のラストシーンのスキップに集約されていた。

■ 熊本に来てから、ずっとスランプだったヘブンそして、今週放送された第20週。起こったエピソードといえば、「ヘブンが雇った女中・クマ(夏目透羽)が有能すぎて、トキとフミ(池脇千鶴)はやることがなく、退屈な毎日を送る」「司之介(岡部たかし)が家の金で相場に手を出し、失敗すると思いきや数倍になって返ってきた」というもの。そして、「台所から焼き網が消え、その“犯人”探しがはじまる」という、実に「なんてことはない」話だった。

しかしこの第20週にずっと基層として置かれていたのが、「作家・レフカダ・ヘブンのスランプ」だ。松江にいた頃は、見るもの触れるものすべてに「スバラシ」と感動し、ペンを走らせていたヘブン。ところが熊本に来てからは、同僚に「創作意欲をかき立てるものが何もない」とこぼす。

■ ヘブンの執筆テーマは「紀行文」から「日本人の内面」に第20週で描かれたヘブンの「スランプ」、そしてとるに足らない「焼き網事件」をきっかけにヘブンが執筆のヒントを掴むという週の結びについて、制作統括の橋爪國臣さんに聞いた。

橋爪さんは「焼き網事件」について、「やってることは、しょうもないんですよね(笑)」と言い、こう続けた。

「でも、その『しょうもない』ことから見えてくる『関わり合い』を目の当たりにして、ヘブンが『人間の心』に気づくという流れが『ばけばけ』らしいと考えました。モデルであるラフカディオ・ハーンも熊本に来て執筆の題材が何もみつからないことに絶望したという史実があります。

でも、ドラマのなかでスランプの理由を『住まう土地を移したこと』だけにすれば、それだけの話になってしまう。『ばけばけ』の『熊本編』では、ヘブンが松江で書いていた『日本の風景を著した紀行文』からさらに一歩踏み込んで、『日本人の内面』を書いていく段階を描きたいと思いました」。

また、第20週以降の描き方については悩んだともいう。橋爪さんは、「『内面』の話は目には見えないので、ドラマで描くのは難しいんです。ヘブンが『日本人の内面』に気づくきっかけをいかにわかりやすく、エンタメとして面白く表現するかと頭を悩ませて、できたのが『焼き網事件』でした」と作劇の裏側を明かす。

■ 熊本は、ヘブンが自分自身と向き合う場所になっていくまた、『ばけばけ』における「熊本編」の役割について、橋爪さんはこう説明する。

「松江の美しい風景を目の当たりにして日本を知り、日本のことが大好きになったヘブン。『熊本編』はある意味、そんな彼が『夢』から覚めて、現実に突き落とされるターンです。作家としては『絶望』と言っていいのかもしれません。ヘブンはこれまで世界各地をさすらいながら、自分自身を見つめることから逃げてきた。熊本は、ヘブンが初めて自らと向き合う場所となっていきます。

著書のなかでラフカディオ・ハーンは、熊本を『嫌い』と言っていましたが、自分のことを見つめて、きちんと気づかせてくれた場所だからそからこそ『嫌い』と言えたのだと、僕は思っています」。

さらに今週の、「あんたがたどこさ」や「焼き網事件」など、何気ない日常のなかに溶け込ませた、ヘブンのスランプの描き方についても話した。

「真綿で締めつけられていくような『クリエイティビティの苦しさ』みたいなことを描きたいと思いました。我々制作陣も、ものづくりの現場で迷ったりするとどんどんドツボにはまっていったりするんですが、作家であるヘブンなら、なおのことだろうなと」。

■「満たされたこと」と「錦織の不在」もスランプの大きな要因熊本に居を移したこと以外にも、ヘブンのスランプの大きな原因が2つあると、橋爪さんは分析する。

「彼自身、生い立ちやこれまでの来し方により生まれた、ある種の劣等感みたいなものがあるだろうし、その劣等感が動力となって書けていたところがあると思うんです。でも日本に来てトキと結ばれて、満たされてしまった。そんなことも、実はスランプの引き金になっているのかもしれません。

それからもうひとつはやはり、松江時代には磐石なリテラリー・アシスタントとして錦織(吉沢亮)がいたけれど、熊本に来てその存在がいない。そんななかで、ヘブンはどうやって『書く』ことを続けていくのか。そこには、妻であるトキが今後大きく関わっていきます」。

次週第21週「カク、ノ、ヒト。」では、まさにその週タイトルのとおり、ヘブンの「書き手」としての葛藤と、それに差し向かうトキの姿が描かれる。

取材・文/佐野華英

(Lmaga.jp)

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