早いもので、今年も残すところ２カ月あまりとなった。今週末は東京で天皇賞・秋が開催される。本日はこのレースの思い出を書くことにしましょう。

　ワタクシにとって今でも強烈な記憶として残っているのは、まだ競馬記者になる前の85年。”皇帝”と称されたシンボリルドルフが、人気薄のギャロップダイナにゴール直前で強襲された一戦と言えば、オールドファンならご存じでしょう。

　まだ青年だったワタクシは始発電車に飛び乗って東京競馬場へ。指定席など買える身分ではなかったため自由席での観戦だったが、旧スタンド２Ｆのゴール前を運良く確保できたことを覚えている。

　このコラムを書くにあたり、当時疑問に思うことなどもあったので、ギャロップダイナの手綱を取った根本康広調教師にいろいろと話を聞かせてもらった。その疑問とは-。

　実は根本騎手は、ギャロップダイナにはテン乗り。しかも、お手馬で所属先でもある橋本輝雄厩舎のアカネダイモン（６着）が出走していたにもかかわらず…。当時はまだ「自厩舎の馬に最優先で騎乗する」ことが当たり前の時代だ。さらに言えば、アカネダイモンは東信二騎手で臨んだのだが、ギャロップダイナには東騎手が幾度となく騎乗した実績があった。この鞍上スイッチは、出馬表を見た時から「なぜ？」と解せなかったのだ。

　そんなワタクシの疑問を32年ぶりに解明してくれるべく、根本調教師が当時のいきさつについて口を開いてくれた。

　「実はギャロップダイナに乗る話がある前に、アカネダイモンはシンボリルドルフを相手に”根本では心もとない”と橋本調教師とオーナーが考えたようで、東騎手に決まっていたんだ」

　そして驚くことに、当初ギャロップダイナは天皇賞への出走予定はなかった。「あのルドルフが出るレースなら使おう…と、矢野進調教師とオーナーの吉田善哉さん（馬主名義は社台ＲＨ）が相談して急きょの出走だったようなんだ」。当然、騎乗者は誰に？となったわけで、東騎手は既にアカネダイモンに決まっており、次は騎乗経験のある柴崎勇騎手へ声がかかったのだが、ロシアンブルー（16着）の先約がありご破算に-。

　「で、僕に回ってきた。その理由も矢野進厩舎、そして生産牧場がギャロップダイナと一緒だった障害の名馬バローネターフに僕が乗って結果を出していたこと（中山大障害５勝、うち根本騎手で２勝）だったみたい」

　「そして最後の決め手となったのは、矢野進調教師の父である矢野幸夫調教師と橋本調教師が兄弟弟子という間柄だったこと。本当に縁を感じるし、運も良かった」

　肝心のレースも振り返ってもらった。矢野進調教師からの指示は「着順はブービーでもいい。とにかくしんがり負けだけは避けるように乗ってくれ」だった。「掛かる馬でもあったから、道中は後方で脚をためる競馬を選択した」と述懐する。

　「そうしたら、ルドルフがスタートでつまずいたこともあって道中は横にいたんだよね。ただ、途中でルドルフはうなるように一気に上がって行って”やっぱり全然違うなあ”と思っていた。それでも動かず予定通りに直線まで脚をためて、いざ追いだしたんだ」

　すると、アカネダイモンの勝負服が視界に入ったという。「”お～っ、かわしたぞ～”と喜んで、そのあとも下を向いて夢中になって追っていたら、袖の下から緑色のシンボリの勝負服が見えたんだよ。”何で？うそでしょう？？”と。まさかルドルフに勝つなんて想定もしていなかったから。これが偽りのない、ゴール直後の本心だったね」

　根本調教師は、まるで昨日の出来事のようにレース史上に残る大逆転劇を覚えていた。「そんな気持ちだったから、ゴール後に手を上げるのが少し遅かったはず」と付け加えていたので、久々にこのレースのＶＴＲを見直した。「お～っ、確かに！」でしたな。

　さて、今秋の天皇賞は順当な決着か、それとも85年のような波乱となるのか。今から楽しみにしている。

（馬サブロー美浦支局・玉川　祝）

【玉川の土曜推奨馬＝東京９Ｒダイトウキョウ】

　５着に終わった前走は道中で詰まる場面が多く、まともに追えたのはゴール直前だけ。それでも０秒３差だった。まず変わってくるはずだ。

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