【平成有馬列伝】わずか4センチ差で明暗を分けた99年 栗毛の怪物グラスワンダー

 平成時代の有馬記念名勝負を振り返る「平成有馬列伝」。平成11(1999)年のグラスワンダーとスペシャルウィークの2頭が演じた、わずか4センチの鼻差で決着した激闘を取り上げる。同世代のライバルが宝塚記念以来となった対戦で、競馬史に残る壮絶なたたき合いを繰り広げた。この一戦の舞台裏をグラスワンダーを管理した元調教師の尾形充弘が述懐する。

  ◇  ◇

 7月の宝塚記念でグラスワンダーに3馬身差をつけられていたスペシャルウィークは、この一戦が引退レース。ゴール前は2頭の執念のぶつかり合いとなった。

 最後の直線の坂を上がったところで、グラスワンダーがわずかに抜け出した瞬間、外からスペシャルウィークが急襲する。2頭が鼻面を並べてゴールを駆け抜けた。中山競馬場のゴンドラ席からレースを見届けた尾形充弘は、敗戦を覚悟してエレベーターに乗り込んだ。

 ところが、検量室でスペシャルウィークの調教師・白井寿昭に「おめでとうございます」と言うと、「いやいや、先生の馬が勝っていますよ」と告げられた。まさか。僅差の勝負だったが、写真判定でわずか4センチ(鼻差)ながら、内のグラスワンダーが先にゴールしていた。この時、勝利を確信したスペシャルウイークの武豊はウイニングランへ。直線に入ると15万人近い観衆から“ユタカ・コール”が起こる。

 既に判定は出ていたのだが、JRA職員の計らいで、電光掲示板での表示はウイニングランを終えたあとに点灯された。検量室前に戻ってきた武豊は、馬上でぼうぜんとした表情を浮かべた。

 「すごいなと思ったのは、このあとにユタカ君から『おめでとうございます』と言われたんだ。普通はなかなかできないことだよ」

 秋初戦の毎日王冠を勝ったあと、骨膜炎のためにジャパンCを回避。限られた時間の中で、スタッフとともに懸命に仕上げた。

 「自分でキーンランドのセールまで見に行って選んだ馬だし、グラスワンダーとともに駆け抜けた50代だったね。鼻差勝ちだったけど、この年の2月に亡くなった尾形パパ(父の尾形盛次元調教師)の目に見えない後押しを感じました。よく頑張ったなと、競馬の神様がご褒美をくれたんだと思います」

 今年4月27日、永遠のライバル・スペシャルウィークが天に召された。尾形はグリーンチャンネルの番組で北海道に赴き、スペシャルウィークの生まれ故郷である日高大洋牧場で花を手向けた。そして新冠のビッグレッドファーム明和を訪れ、23歳になったグラスワンダーに再会した。

 「牧場で非常に大切にされて、年齢の割には馬体に張りがありました。うれしかったですね」

 やっぱりワンダーホース。90年代の最後を力強く疾走した栗毛の怪物は、その威厳を失ってはいなかった。

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