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思い出のグリーングラス 菊花賞の狙い方

 道悪のインコースから豪快に伸びたグリーングラス
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 年齢を重ねるにつれて物忘れがひどくなり、このごろは前週の重賞レースを勝った馬の名前さえなかなか出てこないこともある。が、不思議なもので、ずいぶん昔のことは鮮明に覚えていて、強く印象に残っているレースについては、その展開から出走馬たちのエピソードまで今でもスラスラ浮かんでくる。

 きたる10月20日(日)には3歳クラシック最後の1冠「第74回菊花賞」(芝3000メートル)がJRA京都競馬場で行われる。小生の競馬人生で最もインパクトがあった菊花賞を振り返り、今週末の美酒につなげたいと思う。

◆遅れてきたステイヤーを探せ! 

 この原稿を書くことになって改めて振り返ったら、高校生時代にハイセイコーがらみの馬券を買って以来、競馬歴はもう40年余。無論キャリアと的中率が正比例するはずもなく、JRA職員が「競馬場の記者席付近窓口の払戻率が一番低い」と苦笑するように、こだわりが増すほど的中馬券は遠ざかっていく。

 そんな試行錯誤の競馬人生だが、一介のファン時代からスポーツ新聞の競馬担当記者、さらにデスクなどを経て現在に至るまで、菊花賞に限っては珍しく狙い方は一貫している。コピー風に言うなら「遅れてきたステイヤーを探せ!」だ。それは今から37年前、1976年(昭和51年)の第37回菊花賞、21頭立て12番人気で獲得賞金も出走馬中最低だったグリーングラスのレースぶりに魅せられたのがきっかけだった。 

◆史上初めて2頭が単枠指定に 

 当時、中央競馬の馬券は単複と枠連のみ。複数頭の枠に入った人気馬がレース直前に出走不能となっても、枠連で返還されるのは2頭枠ならゾロ目だけ、3頭以上の枠ならそのまま泣き寝入りだった(結構“代用品”も来たけど……)。その弊害を少しでも取り除こうと、主に大レースで人気集中が予想される馬を単枠指定(シード)する制度が昭和49年のダービー(キタノカチドキ=3着)から実施されており、この年の菊花賞は史上初めてトウショウボーイとクライムカイザーの2頭がシードされた。

 中央競馬会の説明は、あくまで人気の集まりそうな馬を単枠にするというものだったが、「シード」という言葉の響きもあって、主催者がその実力を保証するかの印象もあり、余談だが、この菊花賞では場外発売の小倉競馬場でこの2頭の組み合わせ1点を3000万円余も買った人がいたことが新聞の社会ネタにもなった。 

■一介の3勝馬に希望を抱かせた馬場の悪化 

 馬場入場で「赤の帽子がただ一つ、青の帽子もただ一つ」と杉本清アナウンサー(当時関西テレビ)の名調子で紹介されたシード馬2頭。赤帽3枠のトウショウボーイは旧4歳の正月デビューながら無敗の4戦目で皐月賞を制し、後に“天馬”と称された歴史的名馬。青帽4枠のクライムカイザーはそのトウショウボーイをダービーでねじ伏せていた。加えてダービーでの骨折から立ち直った関西期待の“貴公子”テンポイントも最後の一冠奪取へ虎視眈々。春の役者が出そろった豪華メンバー構成だった。

 一方、グリーングラスはトウショウボーイと同じ新馬戦でデビューして1秒6差の4着に敗れ、2勝目を挙げたのがダービー翌週の条件特別。その後2戦は2着続きで、10月24日の鹿島灘特別(中山・芝2000m)をなんとか頭差で勝ち、菊挑戦へ最低限の賞金を加算した一介の3勝馬に過ぎなかった。加えて騎乗する安田富男がクラシック初騎乗で京都競馬場も初体験ときては、いくら長距離血統とはいえ伏兵視もされなかったのは当然だった。

 しかし、安田富には密かな希望があった。前日夜半からかなり降った雨による馬場の悪化だ。グリーングラスの2勝目、3勝目はともに芝2000mの重馬場での勝利。その2戦とも手綱を取っていた安田富は、本番当日の早朝には自らの足で芝コースを歩いてその緩み具合を確認し、競馬が始まると関係者席から各レースの馬や騎手の動きを凝視した。そして元祖“穴男”は大どんでん返しの秘策を胸に相棒の背中にまたがった。 

■そのとき内側から黒い馬体が…… 

 グリーングラスは11番枠からのスタートだったが、1周目の4コーナーでは早くも内ラチ沿いの6、7番手に潜り込んでじっと我慢の態勢。対してシード馬2頭とテンポイントは互いの位置を確認し合いながらの神経戦を繰り広げていた。そして迎えた2周目3コーナーの坂。相変わらずインキープのグリーングラスとは対照的に馬群の外めへ持ち出してスパート機をうかがっていた3強が動き出す。

 テンポイントの栗毛が躍動し、赤帽、青帽が外から襲い掛かる。しかし、道悪に脚を取られているのか、初めての距離にスタミナが切れたのか、シード2頭が伸びを欠く。最終コーナーの植え込みを回ってテンポイントが馬群から躍り出た。「テンポイント先頭! テンポイント先頭! 押せーテンポイント、ムチなどいらぬ!」と杉本アナの絶叫が最高潮に‐‐。

 しかしそのとき、内側から黒い馬体が重戦車のように足を伸ばしてきた。それまで完全に死んだフリをしていた安田富グリーングラスだ。ゴールでの着差は2馬身半。後にトウショウボーイ、テンポイントとTTG時代を形成する稀代のステイヤーがスター街道に名乗りを挙げた瞬間だった。 

■今のジョッキーは行儀が良すぎる? 

 デイリースポーツの大先輩で、今年のダービーを最後に66歳で競馬記者生活にピリオドを打った鶴谷義雄さんが、安田富さんと兄弟同様の付き合いをしていた縁で、小生も競馬記者になって以来、富男さんには大変お世話になり、いろいろな話をうかがってきた。

 「オレみたいな二流ジョッキーはなかなか本命には乗れないから、何とかして本命馬を負かせないかっていつも考えてたんだ。時にはルールぎりぎりのこともしたけど、それはファンの期待に応えるため。今のジョッキーは行儀が良すぎるよ。だから地方から来たジョッキーにあんなに勝たれちゃうんだ」。

 “穴男”として中央通算758勝、重賞37勝をマークし、史上初の中央競馬全国10競馬場での重賞制覇も達成してファンに親しまれてきた元騎手の苦言を現役ジョッキーはどう聞くのか。 

■今回の「遅れてきたステイヤー」は?

 「遅れてきたステイヤー」に話を戻すと、グリーングラス以降も、武豊のクラシック初制覇となった1988年(昭和63年)のスーパークリーク、夏の北海道開催では1勝クラスを走っていた1990年(平成2年)のメジロマックイーン…。最近では3週前にやっと3勝目を挙げ、本番では当時地方所属の岩田康誠が思い切ったロングスパートで有力勢を完封した04年のデルタブルースや、浜中の出世レースとなった09年スリーロールスのレースぶりが安田富グリーングラスの大逆転劇にダブった。

 さて今年。ズバリ指名したいのが外国産馬のバンデだ。敏腕の矢作調教師がこの馬を筋金入りのステイヤーと見込んで、出走したレースは今年2月の新馬戦からすべて10ハロン以上。勝ったレースは3月の未勝利戦が2400m、2勝目の函館・積丹特別(500万下)は2600m、さらに菊花賞出走へ賞金を上積みした前走の兵庫特別(1000万下)は2400mだった。

 「逃げ」の脚質も魅力だ。断然人気が予想されるエピファネイアが中団待機でレースを進め、他の有力馬もこれをマークしてなかなか動けない展開が見込める。そんな集団を尻目に気持ち良くレースを引っ張り、最後の直線はステイヤーの血が開花して後続との差をさらに広げて栄光のゴールへ‐‐。グリーングラスの時のように馬場が渋れば、期待はさらに高まる。

(デイリースポーツ・関口秀之)

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