江口寿史氏が“トレパク”騒動に初言及し釈明 活動継続「私はこれからも絵を描いていきます」

 漫画家、イラストレーターの江口寿史氏(69)が30日、自身のX(旧ツイッター)を更新。「江口です。この秋の一連の騒動につきまして」との投稿とともに文書を掲載。“トレパク”騒動について初めて触れ、釈明した。

 江口氏のイラストを採用した都内の商業施設・ルミネ荻窪のイベント「中央線文化祭2025」の告知ポスターが掲示された後、同氏がXで、インスタグラムに投稿された女性の横顔を元に描いたとポスト。「(モデルとなった女性に使用許可を取っていなかったが)公開後に女性からの連絡を受け、その後のやりとりで承諾を得た」と釈明した。

 その後、江口氏の過去の作品についても、他人の写真や作品をトレースして作成したとの“トレパク”疑惑が浮上。SNS上で、江口氏のイラストと酷似した写真や構図などを指摘する投稿が拡散された。広告などに使用していた企業が、公開を停止する事態に発展していた。

 江口氏は文書で「今年10月3日の私の投稿に端を発したSNS上での一連の混乱と騒動につきまして、各所との調整が長引き、自分の言葉でお伝えするのにここまで時間を要してしまいました。この間ご心配をおかけした皆様には誠に申し訳ありませんでした」と、騒動が発覚した10月3日以来のX投稿になった理由を明らかにした。

 さらに「事の発端になりました、この秋の『ルミネ荻窪中央線文化祭』のポスター制作に際し、金井球さんのInstagramへ投稿されたご自身の横顔の写真を、ご本人に対する配慮なく無断で参考にしてしまった事につきましては、ポスター発表直後にご本人からの指摘がルミネに届きまして、ただちにDMにてご本人に連絡を取って謝罪し、その後弁護士を通じて双方合意の上、和解しております」と経緯を説明した。

 「この件でご迷惑をおかけした金井球さん、ルミネ、関係者の皆さま、イベントを楽しみにしてくださった皆様に改めて深くお詫びいたします。また、この件をきっかけとして過去の作品にも飛び火してしまい、ご迷惑をおかけしてしまった各企業の皆様、関係者の皆様にもお詫びいたします」と謝罪した。

 江口氏は文書で「この件を発端に起きた騒動は、トレース、トレパク問題の方に拡がり、更に大きなものになっていきました。雑誌の写真やネットの画像を参考にしたり、トレースと呼ばれる表現手法自体を『悪』だとする声やご意見も多数ありました。ここでこのトレースというものに対する私の思うところを少し書かせてください」と、思いをつづった。

 トレースについて「トレースというのは絵を描く上での正当な段階のひとつであり、『トレース=盗用行為すなわち悪』、『トレース=すべてトレパク』という一面的なものでもありません。私の場合は下描きの最初期の第一段階と考えています」と持論を展開し「雑誌の写真でも自分で撮った写真でも絵にする時はまずトレースはしますが、それはあくまで『アタリ』程度のものです。アタリというのは紙の中でどの位置に絵がくるかのレイアウトやトリミングを決める作業で、トレースという第一段階はそこまでです」と詳細につづった。

 江口氏は「そのアタリの上にさらに下描きを何重にも重ねていきます。それは参考にした写真から人物の構図、輪郭などを修正して自分の絵に変換していく作業です。写真の上に薄い紙を置いて最初から最後までなぞって描くことをトレースだと思っている人が多数いらっしゃるようですが、絵を描いたことのある人なら誰でもおわかりだと思いますが、それでは決して自分の絵にはなりません」と解説した。

 また、自身のイラストについて「江口寿史のイラストは『パソコンのトレース機能を使えば誰でも描ける』『AIで写真から線画を抽出し、色をつけているだけ』との極端な意見もありましたが、私はそういったツールは一切使っていません」と一部の指摘について否定。「アナログの手描きであれば問題ないというつもりはありませんが、私の場合、下描きからペン入れはすべてアナログの手描きです。着色作業にのみPhotoshopを使っています」と作画の工程を示した。

 江口氏は「『自分のイラストは描くというよりも作るもの』と常々公言してきた事でありますが、この下描きの段階はまさにイラストの設計図を作るような作業です。下描きが完璧に出来れば、ペン入れは全作画工程の中で私にとっては一番楽しい『描く』時間です。線の走りやゆらぎ、思いがけない偶然の線はその時々の自分にしか出せないものであり、線あってこそ『江口寿史のイラスト』になるのだと思っております」と主張した。

 自身について「写真を参考に描くことについては、イラストよりも漫画を多く描いていた頃からやってきたことで、業界的にも過去から現在にかけて普通に行われてきたという認識です。もちろん作品集、写真集として出版された写真から描く事は当時からアウトだと考えていましたが、雑誌の写真は情報であり自分で撮った写真と同じく、絵を描くための『資料』という認識が長くありました。正直なところ、それが問題にされるという認識はもてていませんでした」と振り返った。

 その上で「しかし、世の規範や価値観、道徳観などは時代によって変わっていくものです。今回の一件の最大の問題は私にその事への認識と配慮ができていなかったことです。40年以上も前のおおらかな時代の、20代の頃の自分に未熟な認識のまま無自覚に変わらぬ方法で製作を続けていました」と問題点を明確にした。

 「素人の身で法的な話をここで長々するのは避けたいとは思いますが、今回、専門の弁護士にも相談させていただき」と前置きした江口氏は「たとえば、ポージングやファッションのルック・スタイリングを参考にするだけでは写真の著作権を侵害することはありませんし、イラストに変換されていることなどにより、当該イラストを見た人がご本人であることを特定できない場合には肖像権・パブリシティ権といった権利を侵害することもないようです。もちろん、ケースバイケースで判断するものですので、権利侵害になるトレースも、ならないトレースもあると思いますが」と、法的問題には問題ないとした。

 一方で「しかし、仮に法的に問題ないとしても、参考にした写真には被写体の方がいて、知らないところで自分の姿や輪郭に似た絵が描かれたら、不安を感じたり、気分を害されたりする方もいる。ある意味、そんな当たり前のことにも十分な配慮ができていませんでした」と反省した。

 江口氏は「ここ20年ばかり、私はイラストの仕事をし過ぎたのかもしれません。そこに慣れや、怠慢や、何を描いても『江口寿史の絵』になっていればいいのだという驕りも生まれていたかもしれません。そこは大いに自戒を込めて認識を改めていかねばなりません」とつづった。

 「今回の件では改めて自らの表現手法を振り返り考える機会をいただきました。皆様からいただいた厳しいご意見も真摯に受け止め教訓とし、これからの活動に生かしていきたいと思っています。私はこれからも絵を描いていきます。まだ何一つ成し得ていないからです。私の絵は今後もまだまだ変わっていくでしょう」と活動を継続するとした江口氏は「皆様、どうか良いお年をお迎えください」と文書を結んだ。

(よろず~ニュース編集部)

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