大盛況の104歳おばあちゃんドキュメンタリー映画 監督が語る作品の「背骨」と「坂道」
映画「104歳、哲代さんのひとり暮らし」を手がけた山本和宏監督(37)がこのほど、神戸市内でよろず~ニュースの取材に応じた。ミニシアターを中心に全国上映も始まり、各地で連日満席状態。ドキュメンタリーでは異例ともいえる盛況ぶりの同作について思いを語った。
-各地で“大入り”。大きな反響を呼んでいる。
「うれしかったのは3、40代の方がお母さんだったり、おばあちゃんだったりを連れてきて皆で見るっていうのがすごくいいなと思いました。今はスマホやテレビで動画コンテンツを一人で見るような時代じゃないですか。劇場で皆で見て泣いて笑うことが、すごく尊いことなのかなと。哲代さんの話だけれど、自分のことだったり、自分のおばあちゃんのことだったりを考えたりする。誰と見るかで違って見えてくる作品になったのは、劇場でやってみて気がついたことですね」
-観客が笑ったりうなずいたり共感を呼ぶシーンが多い。
「哲代さんの魅力が損なわれないようにというのが編集の方針でした。今回、スマホで撮ったシーンも多いんです。映画の“背骨”みたいなものは何げない会話だと思うので、それをなるべく自然に撮りたいなと。小さいカメラでちょっと気配を消して撮るみたいなかたちで。なので、見てる方にも哲代さんの自然な声を届けられたのかな」
-心情や時間を表すような坂道の映像が印象的。
「なにか、象徴しますよね。冒頭も車が上がってくるシーンから始まりますし、エンディングも。後ろ向きで歩いて行く哲代さんの姿も、年を取ることが下り坂とは思わないですが、着実に一歩ずつというのが人生をも象徴するし、淡々と日々を重ねていくところが尊いかなと。毎日下り坂を下りて、どこかに行く。でも、顔は上り坂の方を向いて、その先には本家がある。ただ下りているだけじゃない。また、大画面で見ることで感じる部分もあるだろうし、何を感じていただいてもいいし、自分のストーリーが立ち上がればいいなと思います」
-作品を通して伝えたかった思い。
「100歳まで生きたい方って、2割くらいしかいないらしいんですよ。哲代さんを見ていると、いろんな事はあると思うけど、長生きもいいんじゃないかなと思えるシーンがちりばめられてると思うんです。妹のひ孫に車いすを押してもらうシーンがあります。すごく幸せなシーンだと思うんですけど、若い頃にそういう未来って願えないですよね。老後、手間をかけず生きたいなっていうのはあると思うんです。でも、長く生きていればそういう幸せに出合うこともできるんだと。同窓会シーンも、80年ぶりに教え子に会うって、そういう想定外の幸せに出合えるというか、長生きしたらいいこともあるのかなというのは、撮らせてもらって感じたことですね」
-今後はどのような作品を。
「映画でも描いた太平洋戦争が開戦した時、先生だった方ってほとんどいらっしゃらない。そういう戦争体験だったり、戦争の時に大人だった人の話を聞ける“最後の世代”だと思います。被爆者平均年齢もどんどん上がっています。広島に「被爆樹木」というのがありますが、当時を語れる方がもう1人しかいないのではないかと思います。哲代さんも、映画の中には入ってないですが、愛新覚羅溥儀(あいしんかくらふぎ、清朝の最後の皇帝。映画「ラストエンペラー」で有名)に会ったことあるというんです。そういう語り継ぐべき話が戦争だけじゃなくあると思います」
同作は、広島県尾道市の山あいの町で、100歳を超えてひとり暮らしを続けている元教員の石井哲代さんの日常を撮影したドキュメンタリー映画。石井さんは「人生100年時代のモデル」として新聞・テレビなどで紹介され、ユーモアあふれる言葉などを集めた書籍が累計21万部を超える“スーパーおばあちゃん”。今作は101歳から3年に渡る日々を追ったもので、老いと向き合いながらも自立し、めいや近所の人たちと助け合い、笑顔を忘れず生きる姿がシニア世代の共感を呼んでいる。
◆山本 和宏(やまもと・かずひろ) 1987年、広島県大竹市出身。「世界の車窓から」やNHKのドキュメンタリーを制作。「一万人のカリスマ!農業に革命を起こす“農チューバー”」(2019年)で民間放送教育協会奨励賞、「これがおれたちの伝統~人と鳥がつないだ450年~」(2021年)で同協会会長賞、「被爆樹木の声を聴く~広島の永遠のみどり~」(2022年)で同協会会長賞ほかを受賞。
(よろず~ニュース・田中 靖)
