世界に羽ばたくトルコのイケメン俳優

 ニュージーランド出身のアカデミー賞俳優ラッセル・クロウや、『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズの米俳優ヴィゴ・モーテンセンが若かりし頃、日本映画に出演して経験を積んだことは今や伝説だ。そこに名を連ねそうな俳優がまた一人。日本・トルコ合作映画『海難1890』(12月5日公開)のトルコ人キャストのケナン・エジェ(35)だ。劇中では分かりづらいが、素はモデルかと見紛うほどの超イケメン。本作を機会に、国際的な活躍を目指すという。

 1890年に現在の和歌山県串本町沖で遭難したオスマン帝国の軍艦「エルトゥールル号」の親善訪日使節団を、地元住民たちが救助したエピソードと、1985年のイラン・イラク戦争で、テヘランに取り残された日本人たちをトルコが救援機を提供して救出したという、2つの史実を通して125年の歳月を超えた両国の友好を描く本作。その中でエジェは、エルトゥールル号編で海軍機関大尉、テヘラン編では在イラン・トルコ大使館職員の2役を演じる。

 エジェは映画や連続ドラマで活躍しており、トルコ版「ELLE Man」の表紙を飾るような人気俳優。今回はトルコ側製作陣から出演オファーを受けて快諾したという。

 「エルトゥールル号の話は小学校の教科書に掲載されていたので知っていましたが、イラン・イラク戦争時は5歳。今回の仕事を通して知りました」

 エジェの経歴がスゴい。父親は「国際的企業の会計担当責任者」(エジェ)。その父親の仕事の関係で、生まれはアラブ首長国連邦のドバイ。幼少時代からコメディアンのモノマネをして家族や友人たちを楽しませることが好きだったそうで、高校は豪州、大学は米国へ飛び演劇を学ぶ。

 「ただ父親のアドバイスで経済も一緒に勉強しました」(エジェ)。卒業後はアイルランドに渡って演劇スクールなどに通っていたが、2006年に現地の連続ドラマ「Fair City」で俳優デビューを果たす。

 現在はトルコ・イスタンブールに戻って活動を続けているが、「アゼルバイジャンやカザフスタンでも生活したことがあります」というコスモポリタン。ゆえに「いつか国際的プロジェクトに関わりたいという思いはありましたが、まさか日本・トルコ合作映画に出るとは予想もしていませんでした。自分のような背景を持つ人間にとっては、使命のようなものを感じます」という。

 撮影は今年1月、串本町でも行われた。

 「新しい事に向かう前に、イメージを固めるのは好きではありません。日本についても同様です。ただソニーやトヨタのような大企業があり、映画やアニメの影響、さらに”たまごっち”のような機械に対してエサや水を与える概念が面白く、トルコが今を生きている国だとしたら、日本は未来を生きているような印象がありました」

 その後、2カ月に渡ってトルコロケを敢行。中でもクライマックスの、トルコの競馬場の馬券売り場を空港に見立てての、トルコ人と日本人のテヘラン脱出を巡る危機感溢れる大群衆シーンは圧巻だ。現地のエキストラ計800人が参加したという。

 だからこそ、一層思った。あの緊急時、誰もが我先にと国外脱出に走り回り、各国首脳が自国民の安全を優先する最中、日本に救援機を用意したトルコという国はどれだけ寛大なのかと。すべては当時のトゥルグト・オザル首相の英断によるものだが、国民からも避難の声が上がらなかったという。

 ご存知、トルコはイスラム教の国。教えの中には、困窮者の為に喜捨を義務付けたザカートという制度もある。自然と育まれた宗教観によるものなのか?はたまたシリアやイラン・イラクと政情不安定な国と接し、亡命者を受け入れてきた歴史によるものか。エジェに尋ねると、いま、イスラム国の言動が、世間のイスラム教徒に対する偏見を生んでいることもあって険しい表情となった。

 「私は、宗教や民族が違うかと言って、人間の行動に差が出ることはないと思います。ややもすると人間は他人と付き合う際、国籍やその人のバックグラウンドの情報を元に無意識に選別しがちですが、同じ人間として、同じ空気・同じ時間を共有して生活していること、同じ人間であることを理解することが大切だと思います。確かにご存知の通り、トルコはシリアと国家が引いた“国境”という線で隣り合っています。いわば親戚にようなものです。困っている人たちを黙って見過ごすことは出来ません」

 本作はトルコでも公開されるが、当初11月の予定が大統領選挙のやり直しとぶつかり、1カ月遅れの12月25日公開となった。くしくもトルコ公開の前日24日は、エジェの36歳の誕生日だ。

 「いま、世界は混沌としています。その中で、見返りを求めずに他人に手を差し伸べると事を人は忘れがちになっていると思います。これは世界中の人々にとって重要なテーマとなる作品ですので、このプロジェクトに一人の俳優として関われたことを光栄に思います」(映画ジャーナリスト・中山治美)

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