ツートライブ やっと「漫才師」と言える 芸歴18年「THE SECOND」制して26年4月から東京進出 仕事量3倍に
5月に開催された結成16年以上の漫才師による賞レース「THE SECOND ~漫才トーナメント~」を制したお笑いコンビ・ツートライブが、来年4月から東京に進出する。大阪では実力者として知られる一方、思うように光が当たらず苦汁をなめ続けた2人。周平魂(42)は「諦めへんだけ、でしかなかった」と語る。このほど、決意表明後最速でデイリースポーツの取材に対応。芸歴18年目でつかんだタイトルの追い風を受け、夢だった「有名な漫才師」になるべく、新天地での勝負を決意した2人の覚悟に迫った。
王者となり7カ月。仕事量は3倍に増加し、周平魂は「一皮むけた」と人生の激変ぶりを独特の表現で語る。漫才で全国を行脚する機会も増えており、栃木での仕事では移動の新幹線もグリーン車となった。「10分の漫才に6時間ぐらいかけて行くという、時間も交通費もかけて呼んでもらえている。むちゃしんどいけど、これ誇れる話やなって」。売れた実感と感謝が自然とこぼれた。
全国区で売れたいという思いは芸人として当然のことだ。王者となり、いつの間にか胸の奥にしまいこんでいた東京進出への道を切り開いた。
たかのり(41)は、夢見たデビュー当時を引き合いに「冠番組を持ちたいとかって初期衝動があったけど現実を見るとだんだん薄れていくじゃないですか。無理やな、無理やなって」と説明。だからこそ周平魂は「今なら東京に行っても違和感ないタイミング。ここ逃したら一生ないと思ったのと、決め手は死ぬ前に『あん時行っとったらどうなったんやろ』って絶対思いそやなと」と後悔しないために決断した。
2人とも家庭があるが、単身赴任という形。周平魂は「大阪もめっちゃ好きやし、子どもも5歳だから寂しさは異常」と本音を吐露。「ほんまのこと言ったらまじでめんどくさいですもん!でも面倒くささを夢が上回った」と覚悟を決めた。
一方で、東京の物価には驚きを隠せない。物件探しの最中、たかのりは「異常。1・5倍って聞いてたけど、マジで2倍」と絶句。周平魂も「どうやって皆生活してんのって思う。もう頭おかしいんかって」と思わず嘆いた。
出会いは大学時代。幼少期からお笑い好きだった周平魂は、M-1グランプリに出る相方を探す感覚で入学した。「入学式もわざと遅刻して、そこにツッコんでくるやつがおったら仲良くなって、みたいな」。選別するため翌日のレクリエーションでは、大勢の同級生の前でしゃべる先輩のマイクを奪って大ボケ。その時、一緒にふざけたのがたかのりだったとし、お調子者2人でコンビを組んだ。
下積み時代は厳しく、たかのりは「基本バイトしてました」と苦笑。売れていく芸人仲間を横目に劇場の前説を10年目まで担当し、周平魂は「仲間が売れると『俺らもいける』って思う時もあれば落ち込む時もある」と複雑な胸中を振り返る。
周平魂は解散が1度だけよぎったという。家庭がある中、月収4万円の時代があり「バイト3つ掛け持ちして、お互いのバイト先でネタ合わせする状況が10年ぐらい。ほんまヤバいですよね。だってその時点で34、5(歳)。『これ何してんねやろ』と思って(笑)」。将来に絶望した。
M-1もラストイヤーまで準々決勝止まり。「別に漫才に関してはサボってないんですよ。15年間サボらずやってあかんことがあるんやって。えぐいなって思いました」と現実の残酷さを痛感。「4年目から十何年目ぐらいの記憶がぐちゃぐちゃ。地獄って思う時もあれば芸人仲間とおると楽しいし」と振り返った。
それでも続けられたのはお互いの存在があったから。2023年、ラストイヤーのM-1準々決勝で周平魂は「舞台に出る瞬間に笑けてきて。『これ何してんねんずっと』って。大学の時に僕がひと言声かけただけじゃないですか。1回辞めようと思った時の『何してんねん』とまた違う『何してんねん』というか」。笑いにささげた日々が込み上げ、笑えてきた。
敗退した中でも、「2人とも涙があふれてきそうになった」と後悔なく達成感にあふれていたという。「『アホやなこいつ』って思った時ぐらいから、15年こいつとやってきて良かったんやろなって」。たかのりも「漫才師は積み重ねても相方が消えたら一気に何もなくなる。絶対におらなあかん存在」とかみしめた。
苦労の末、セカンド王者となり、全てが報われた。芸人人生を周平魂は「諦めへんだけ、でしかなかった」と実感を込めた。「どうせ壁はまたくるし、さっきルミネでめちゃくちゃスベってきたし」と苦笑いで自虐も添えた。
たかのりは優勝の副賞で仕立てた高級スーツの裏地に「漫才師」と刺しゅうを入れたという。「何のタイトルもない状態で『漫才師です』とは言いにくいんですよ。でもやっと『漫才師です』と言えるようになったかなと思う」と胸を張った。
東京進出で目指すは「有名な漫才師」。周平魂は「来た仕事を一生懸命やるのは変わらない」、たかのりも「何でも挑戦したい」と意気込む。芸人としての第2章へ、新天地で夢の続きを刻む。
◆ツートライブ 2008年4月、神戸商科大学(現兵庫県立大学)の同級生で、ともにNSC大阪校30期生の、たかのり(1984年4月11日生まれ。広島県尾道市出身)と周平魂(しゅうへいだましい=1983年9月11日生まれ。京都市出身)で結成。17年「第38回ABCお笑いグランプリ」決勝進出。19年、22年、23年「上方漫才協会大賞」文芸部門賞受賞。25年「THE SECOND~漫才トーナメント~2025」優勝。来年4月から東京に進出。
