サゲてナンボ!さらけ出してナンボ!岡田前監督にみる大阪人の“笑”サービス精神 山本浩之アナコラム
【ヤマヒロのぴかッと金曜日】
哲学者・思想家で、独自の日本文化論で知られた梅原猛氏が、著書「日常の思想」の中で大阪の笑いについての考察を遺している。
『東京は永い間政治の中心地であった。封建社会の支配者である将軍がいて、社会はこの将軍を中心とした厳格な階層秩序を維持していた。武士は羽織袴と二本差と、容易に感情をあらわさないいかめしい顔つきとに、階級的な誇りを保っていたのである。この武士の誇りが職人にも反映する。落語家も例外でなく、高座以外でも羽織袴に威厳を正し師匠としての誇りを崩そうとしない。どんなに滑稽な人物を話の中に登場させようとどこかに己れを笑いきれぬものが残っている。誇りという笑いの敵が残っているのである。
これに対し大阪は町人の街。そこでは形式的な威厳より実質的な価値が問題であった。大阪商人は階級的誇りなどという無用な仮面の底にかくれている裸の人間性を見る眼をもっていた。人間一皮むけば色と欲。まして芸人がどうして威厳をつくろう必要があろう。自己を徹底的に裸にし、徹底的に己れを馬鹿にすることが出来た。なぜ現在、大阪の笑いが東京の笑いを圧倒するのかという理由をたやすく理解することが出来るであろう。』
半世紀も前の見立てだ。笑いの東西交流もあり、芸人の中の垣根は今ではほとんど無くなったと言えよう。ただ、そうした文化の中で育った大阪人には、お笑い芸人でなくとも生来の素養が備わっている。駄洒落やギャグに頼らなくてもオモロいことが言える素人が多い。
先日もそんな場面に遭遇した。プロ野球「巨人-阪神」戦。TV中継の解説者は、球界のレジェンド・岡田彰布、原辰徳の両氏だった。
これまで幾度も相まみえた二人が解説者として揃っての出演は初めてだそうで、和やかな中にもピリッとした雰囲気が漂う。試合開始からまもなくカメラが実況席に切り替わるや、早速、原さんが「ひとつよろしく!」とばかりに手を差し出した。絵的には非常にスマート、である。
対する岡田さんは少しはにかむように「イヤイヤ……」という感じでそれに応じる。真剣勝負を繰り広げたライバルが握手するシーンは微笑ましいし、なかなか見られない貴重なシーンかもしれない。
だが、大阪人の私にはわかる。「イヤ、もうそんなんエエんとちゃうのォ。握手とか、そんなん。そんなガラちゃうやろう…」。照れ屋の岡田さんには内心抵抗があったに違いない(あくまでも私の勝手な推測に過ぎないが)。少々出し抜かれた形で始まったが、試合が進むにつれ、二人の解説、野球観は聞き応えがあった。共にさすが名監督だ。ただ、いつもの岡田節をボチボチ聞きたいなぁと思っていたら、、遂に出た!
昭和60年の『伝説のバックスクリーン3連発』の話になり、実はあの日は巨人も原選手1本、クロマティ選手は2本ホームランを打つという文字通りホームラン合戦の試合だったが、岡田さんはそれを振り返って「あの頃バックスクリーンに打った選手には資生堂からバックスクリーン賞が送られたんやけど、、資生堂も1試合に2本までしか用意してへんからね、おん。そんなもん何本も打たれたら足りんからねぇ。そんな仰山用意してへんから」。実況席、大爆笑!
おいおい、まさかそんなこと言い出すなんて。そんなこと覚えてるなんて。東京ドームにレジェンド解説として招かれて、ドカーンと一発!笑いを取った。これぞ生粋の大阪人。どう思われようが笑い取ってるやんか、お~ん。
◇山本 浩之(やまもと・ひろゆき)1962年3月16日生まれ。大阪府出身。龍谷大学法学部卒業後、関西テレビにアナウンサーとして入社。スポーツ、情報、報道番組など幅広く活躍するが、2013年に退社。その後はフリーとなり、24年4月からMBSラジオで「ヤマヒロのぴかッとモーニング」(月~金曜日・8~10時)などを担当する。趣味は家庭菜園、ギターなど。
