【ヤマヒロのぴかッと金曜日】ヤマヒロ泣かせの○○ 60を超えてチャレンジ!

 山本浩之アナウンサー
 私も出演する朗読劇『悪夢のパジャマパーティー』
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 “国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。夜の底が白くなった。信号所に汽車が止まった。向こう側の座席から…”「ハイ、もう結構です」。

 学生時代、私は生田教室という大阪のアナウンス学校に通っていた。「アナウンス教室の虎の穴」の異名を持ち、主宰者の生田博巳先生の指導が大層厳しいことで知られていた。

 川端康成の名作『雪国』の朗読を聞いてもらおうと読み出したとたん、ストップがかかった。

 「あのねぇ、山本君。この美しい文章は、淡々と、それでいて男女の艶っぽさ、大人の色気を感じる読み方をしないと。読み手が下手くそやと、この名文が死んでしまいますねん!来週までにもっと読み込んできてください!」「はい、ありがとうございました」

 学生にとって決して安くない授業料を納め、毎週下宿先の京都から通っているというのに、この日の私の授業時間はこれだけ。二十歳の若者に、艶とか色気を言われても答えなど見つかりっこない。それでも家に帰って必死に練習を重ね、翌週のレッスンに臨む。

 “国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。夜の底が白く…”「あかん、あかん!先週よりひどくなってる。もっと考えてください!!はい、次の人」。私の時間はさらに短くなった。

 以来、片っ端から名作を声に出して読みまくった。朗読やナレーターの名手と言われる人の作品を聴いて勉強した。生田先生の教えがなければ、言葉の表現者として、今の私は存在しなかったであろう。

 それでも、私は今でもこの手の文章を読むのが苦手である。うまい人への憧れは消えない。

 この世界に入って転機となったのは、劇作家であり演出家のわかぎゑふさんとの出会いである。関西テレビ「アナウンサー朗読会」で毎年指導を受けるうちに吹っ切れた。「下手の横好き」も続けりゃそのうち『型』のひとつもできるだろうと、チャンスがあれば迷わず参加することにしている。そのわかぎさんが脚本を手がける11月の舞台『じゃりン子チエ』(大阪松竹座・11月15~25日)の出演が今から楽しみで仕方ないのだが、その前に、本当に苦手だった朗読の仕事が舞い込んできたのだ。

 昨年、高槻城公園芸術文化劇場で上演した『お通夜イレブン』にゲスト主演させてくれた奇才・木下半太さんから、朗読劇『悪夢のパジャマパーティー』(インディペンデントシアター2nd・9月18~22日)へのお誘いがあった。

 ラブホテルに集まる訳ありの男女4人。互いの緊張をほぐすために、順番に奇妙な話を披露していく。一人で何役も受け持つので頭の中を整理しないといけないが、それがまた演じていて面白い。私が出演するのは20日と22日の計4ステージだが、8公演すべて演者の組み合わせが変わり、それぞれにどんな化学変化をもたらすのかが楽しみだ。

 男女の艶っぽさ、大人の色気に加えて、無邪気な子供、ホラー、サスペンス、コミカル…、生田先生は天国からどう評価してくれるだろうか。(笑)(元関西テレビアナウンサー)

 ◆山本浩之(やまもと・ひろゆき)1962年3月16日生まれ。大阪府出身。龍谷大学法学部卒業後、関西テレビにアナウンサーとして入社。スポーツ、情報、報道番組など幅広く活躍するが、2013年に退社。その後はフリーとなり、24年4月からMBSラジオで「ヤマヒロのぴかッとモーニング」(月~金曜日・8~10時)などを担当する。趣味は家庭菜園、ギターなど。

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