映画「ドライブ・マイ・カー」評論家・森直人氏が語る濱口作品の魅力は「言葉の強度」

 家福(西島秀俊=左から3人目)が多言語演劇を行うシーン(C)2021「ドライブ・マイ・カー」製作委員会
 家福(西島=右)が高槻(岡田=左)と飲み交わすシーン(C)2021「ドライブ・マイ・カー」製作委員会
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 映画界最大の祭典である米国の「第94回アカデミー賞」授賞式がいよいよ27日(日本時間28日)に迫ってきた。日本映画初となる作品賞と脚色賞に加え、監督賞、国際映画賞の計4部門でノミネートされた濱口竜介監督(43)の「ドライブ・マイ・カー」が栄冠を手にするか、注目を集めている。映画評論家・森直人氏に濱口作品の魅力と、海外でも評価される理由を聞く。

 森氏は本作を「10年間、自主映画で色んな試みをしてきた濱口監督の一つの集大成としての、ガチなアクセルの踏み方を感じた」と語る。中でも特徴的なのは「言葉」。妻を失った俳優・脚本家の家福(西島秀俊)が9つの言語による多言語演劇に取り組みながら、喪失からの再生を目指す姿が描かれる。戯曲の本読みシーンなどで、せりふ量も多い。

 「言葉の強度がとにかくすごかったと思います。日本映画は間とかニュアンスで押していくことが多いけど、ある種、欧米的な言葉の応酬。手話を含む多言語で、全部翻訳可能な言葉として演出されている。全部、言葉で3時間を埋めていく熱量がすごかった」

 西島や岡田将生らのキャリアハイともいえる名演を引き出したのは、徹底的な本読みだと分析。「ハードなテキストをしゃべらせて徹底的に負荷をかけた果てに、奇跡の瞬間が生まれてきたイメージ。言葉はすごく重要なんだけども、狙ってるのは言葉の先にある生っぽさ。奇跡が続いてここまで来た唯一無二の作品」と称賛する。

 原作は村上春樹氏の短編で、作中にはチェーホフ、ベケットら世界的な巨匠の戯曲も登場。そこが海外人気を得たカギだと話す。

 「文学や演劇の要素を全部、総合芸術として詰め込める器としての映画という発想はあったと思う。海外の知識層に訴えかける、欧米で通用する世界的教養を映画の養分として全部取り込んでいるような迫力がある」

 本作のテーマは、東洋的要素で海外評価を勝ち得てきた従来の邦画とは違うという。

 「ただシンプルな喪失、分断を乗り越える話なのがすごい。世界中のいたるところにある問題だからこそ共感を呼ぶ。グローバルにつながった世界の中で映画を作って、たまたまそれが日本映画だった感じ」

 東大を卒業し、東京芸大大学院で黒沢清監督に師事。若くして海外の映画賞を受賞するなどエリートコースを歩んできた濱口監督。「短期間に実績が着実に組み上がっていったのは大きかった。本作は一つ抜けている気がします。タイミングを逃してほしくない」と、期待に胸を膨らませた。

 ◆ドライブ・マイ・カー 村上春樹氏の同名短編小説が原作。妻を失った俳優・演出家の家福(西島秀俊)が、演劇祭で訪れた広島で、寡黙なドライバー・みさき(三浦透子)らに出会い、喪失から再生を目指す。監督・脚本・濱口竜介氏、脚本・大江崇允氏、プロデューサー・山本晃久氏。主演・西島秀俊のほか、三浦透子、岡田将生、霧島れいかが出演。

 ◇濱口竜介(はまぐち・りゅうすけ)1978年12月16日生まれ。神奈川県出身。東京芸術大大学院在籍中から作品が国際映画祭に出品されるなど高評価を得た。18年には商業映画デビュー作「寝ても覚めても」がカンヌ国際映画祭コンペティション部門に選出。21年には「偶然と想像」がベルリン国際映画祭で銀熊賞(審査員大賞)。脚本家として参加した20年の黒沢清監督作「スパイの妻」がヴェネチア国際映画祭銀獅子賞。

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