中井貴一 貫く昭和ダンディズム 硬軟自在の演技派が時代を超えて愛される理由

 大人の気品と知性そしてユーモアを併せ持つ希有な存在-。俳優の中井貴一(58)が年を重ねるごとにその魅力を増幅させている。シリアスな作品から最新の主演映画「嘘八百 京町ロワイヤル」(31日公開)のようなコメディーまで、声のかかる仕事は多岐にわたる。二世俳優という肩書がついて回った新人時代から現在の演技派としての地位を確立することができたのは、昭和の名俳優たちから学んだ“ダンディズム”に理由があった。

    ◇     ◇

 颯爽(さっそう)と現れる姿から紡がれる言葉まで美しい-。そのたたずまいは「ダンディー」そのものだ。

 醸し出す雰囲気はどこか古き良き昭和をほうふつとさせる。その根底はデビュー当時の20代にあった。

 往年の名俳優・佐田啓二さん(享年37)を父に持つ中井は、成蹊大学時代に映画監督の松林宗恵さん(享年89)に才能を見いだされ、81年公開の映画「連合艦隊」で俳優デビューを飾った。

 2歳の時に他界した父から、直接学ぶことはできなかった。芸能界のイロハを教わったのは、当時40~50代の先輩俳優たちだった。「ダンディズムやナルシシズムといった話を聞いた。日本人に足りないことが何でそれがいかに大切かということ。『貴一、粋は心だということを忘れるなよ』と教えてもらってダンディズムも心なんだって。先輩たちがかっこいいと思った」。スターたちの言葉が、ごく普通の青年を成長させた。

 良い俳優であるために「気遣いは女らしくあれ」がモットー。83年の映画「父と子」で共演した俳優の小林桂樹さんが常に言っていた「良い俳優は女っぽい。良い女優は男っぽい。女らしい気配りができるヤツが上にいく」という姿勢を30年以上実践している。「せっかく『気』という言葉があるなら思いっきり使い倒してやろうと思っています」。気配りのできる紳士は共演者や関係者にもファンが多い。昭和の名優たちにたたき込まれた数々の教えが平成、令和と時代を超えても愛される中井のキャラクターを醸し出している。

 積み重ねてきたダンディーさに加えて、にじみ出る愛らしさも好感度の高さの理由だ。ネット上の「かわいい」の声に「本当に?大人になった気がしているけど、いつまでも甘えたな部分が核に残っている。それが出てるんだと思います。精神年齢は小学2年生レベルですよ!」とおちゃめに笑った。

 TBS系「ふぞろいの林檎たち」シリーズでは人生に悩む青年を、NHK大河ドラマ「武田信玄」(88年)では目的のためなら手段を選ばない、厳しい信玄を熱演した。オールジャンルを演じる実力派として、二世俳優という壁を越えてきた。

 俳優としては円熟期にあるが、重厚な役ばかりではなく「グッドモーニングショー」(16年)、「記憶にございません!」(19年)などコメディー作品への参加も目立つ。喜劇に挑戦するのは俳優としての“限界突破”が狙いだという。「喜劇は0点何秒狂うだけで全く面白くなくなるので難しい。だからこそ役者としてその0点何秒を探しに仕事へ向かうんです」と説明した。

 今年は芸能生活39周年。俳優としての変化には「20代でできなかったことができる。25歳の時に『武田信玄』で老け役まで演じたけど、今はそのまま老け役でも出られる。感性が豊かになってきたけど、俳優として僕はまだまだですよ」と謙虚にギアを入れ直す。

 年々俳優業の面白みが増しているという。「どんな演技をしても正解がないからロマン以外の何物でもない。だからこそ仕事を続けている。いつまでも自分を奮い立たせてお客さまに夢を与え続けられる存在でありたいですね」。演技の深みを追い続ける中井の旅はこれからも続いていく。

関連ニュース

編集者のオススメ記事

芸能最新ニュース

もっとみる

    主要ニュース

    ランキング(芸能)

    話題の写真ランキング

    デイリーおすすめアイテム

    写真

    リアルタイムランキング

    注目トピックス