大林監督に効いた抗がん剤「イレッサ」とは…ピンポイント治療で消滅も可能か?

 大林宣彦監督(79)のように余命宣告をされながら、劇的に回復することがあるのか。遺伝子検査の結果、効果があると判明し、今回、効力を発揮した抗がん剤「イレッサ」とは。松本クリニック(兵庫県芦屋市)の松本浩彦院長に聞いた。

  ◇  ◇

 二十年ほど前から分子標的治療薬という、それまでと全く異なる新しい概念で医薬品が開発されるようになりました。なかでもイレッサは、分子標的治療薬第一号の抗がん剤として世界に先がけて日本で認可されるや、「夢の薬」と、こぞって肺がん治療に使われました。しかしその直後から次々と副作用が報告され、果ては亡くなる患者さんまで多く現れ、夢の薬は一夜にして毒薬の烙印を押されてしまいます。

 ところが、その後さまざまな検証の結果、イレッサは特定の遺伝子変異がある人にしか効かないことが判明します。私ども医者は新薬を使う時、良い薬だろうけど、たぶん何割かの特異体質の人には効かないだろうな、という漠然とした印象を持ちます。ところがイレッサはその逆、特異体質の人には劇的に効くけれども、普通の人には薬どころか毒になる代物だったのです。

 結果的に男女差・人種差・遺伝子の変異、様々な要件を満たす人に限って、イレッサはやはり夢のような肺がんの治療薬だと判り、その後も多くの分子標的治療薬が開発され、いまや臨床の現場では種々のがんに対する治療の主役となっています。しかしそのほとんどは患者さんの遺伝子情報で薬の適応、つまり効くか効かないかを事前に判定し、効くと判った人にだけ投与されます。

 私が医者になった頃は95%助からないと言われていたある種の白血病は、今では分子標的治療薬で95%治るようになりました。また昔は確定診断が出た時にはもう患者さんは亡くなっている、と言われたほどの劇症型白血病も今は半数以上が助かります。

 不治と言われた進行肺がんが、効く人は飲み薬だけで治せる時代になっています。大林監督はまさにその「効く人」だったのでしょう。当て物みたいにいろいろ試す必要もなく、事前に患者さんの遺伝子を調べてピンポイントで薬を選択すれば、がんを消滅させることが可能なまで医学は進歩しています。ただし、遺伝子を調べた結果どれも無効だと判ることもありますし、全てのがんに有効という薬もありません。人類とがんとの闘いは、まだ終わったとは言えないのです。

 ◆松本浩彦(まつもと・ひろひこ)芦屋市・松本クリニック院長。内科・外科をはじめ「ホーム・ドクター」家庭の総合医を実践している。同志社大学客員教授、(社)日本臍帯・胎盤プラセンタ学会会長。

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