名物D語るANN50年(1)福山もゆずも「ディレクター至上主義」

 「××××のオールナイトニッポン!」。タイトルコールに続いて「ビタースウィート・サンバ」が流れる。ラジオに触れたことがある人ならば一度は聞いたことのあるであろうニッポン放送の「オールナイトニッポン」が10月2日で放送開始50年を迎えた。出演パーソナリティや内容・コンセプトを時代に合わせながら、歴史的番組はどうつくられ、どう変化してきたのか。福山雅治やゆずら多くのパーソナリティを手がけ、ゆずからは「鬼丸」とも恐れられた名物ディレクター・プロデューサーで、現編成部長の節丸雅矛氏(以下、敬称略)に、オールナイトニッポン(以下、ANN)の現在と過去、そして未来について聞いた。(全3回)

 節丸が手がけた中でも20年に渡りANNブランドの番組を担当し、最もブレイクしたパーソナリティが福山雅治だろう。94年の月曜1部(深夜1時からの部)に福山が復帰したころに担当ディレクターとなった。第1印象は「かっこつけてるな」だった。まだ、20代の福山はアイドル歌手的な人気もあり、それまで放送されていたオールナイトニッポンも「アイドルに仕上がっている感じ」に映ったからだった。そこから20数年続く付き合いになったきっかけは、打ち合わせも兼ねた飲み会だった。「音楽業界の大先輩が古臭い理論をまくしたてるので、福山君と僕は論破しようと徹底的に応戦したんですよ。最後には僕が相手にウイスキーをぶっかけて(笑)」。

 そんなパーソナリティとディレクターの共犯関係のようなつながりが生まれてこないと面白い番組はできないのだという。けんかのような意見のぶつけ合いは日常茶飯事。例えばリスナー(ラジオの聴き手、聴取者)に呼びかける時、「皆さん」という言葉を使うなと、福山にディレクションした。代わりに使うよう求めたのは「お前」。

 「男に向けてしゃべってくださいと言ったんです。君は女性ファンがいっぱいいるから、男に好かれた方がいいでしょと。女性だったら女性に、男性だったら男性ファンが多い方が長続きするんですよ。ラジオで男と接点を持つことで彼のキャラクターが変わっていったんですよ。俺たちの相手は常に童貞なんだよねとなって」

 土曜日の「福山雅治のオールナイトニッポンサタデースペシャル・魂のラジオ」を含めて、2015年3月まで続く、ラジオパーソナリティとしての福山雅治を肉付けしていったのが、こうした節丸とのやり取りだった。あまりに口うるさいものだから、福山が放送作家と2人だけでミーティングをする小さな“反乱”をすることもあったというが、「それも良かった」(節丸)と番組の刺激につながった。

 節丸に言わせれば「ANNの良いところはディレクター至上主義」。一見すると、スタジオの中にタレントを入れて、好きにしゃべらせている番組のようにも思えるが、それは大きな勘違いで、番組前に入念なネタの打ち合わせをして、本番中は「トークバック」というパーソナリティに指示を出す機器を駆使して、「曲紹介!」「あて先!」、「CM!」など、こと細かに指示を出している。福山も福山で、本番が始まれば決して勝手な暴走トークはせず、どんなに未熟なディレクターが担当してもキューが出るまで声を出さなかった。それまでずっとディレクターの方を見つめ、逆にディレクターが恐縮して何もできなくなってしまったことが実際の放送であったという。

 「僕は、年上だろうと年下だろうと、パーソナリティには必ず敬語で話すんです。それもゆずに怖がられた原因かな」。ゆずのANNで「鬼丸」とあだ名がつく一因となった出来事があった。番組が始まって最初の聴取率調査の日に桑田佳祐をブッキング。これが、ゆずを震え上がらせた。節丸は振り返る。「桑田さんがギターを持ってきたんですよ。でもゆずが歌ってくれって言い出せない。びびちゃって。桑田さんが『節丸!オレはいつ歌ったらいいんだっ!』って言ってしびれを切らして…。(そうした経験の)刷り込みが、『節丸、怖え』みたいな(笑)」。そんなゆずも「オールナイトニッポン GOLD」を09年から15年まで担当するなど、ANNブランドを代表する存在になった。いい意味でパーソナリティを追い込んでいく手腕がディレクターには求められたというわけだ。

 ラジオディレクター、ラジオプロデューサーといっても、突き詰めればニッポン放送という企業の会社員に過ぎない。だが、会社員然とした仕事が許されない狂気がANNのブースにはあった。節丸が入社した1989年は、それが今よりも色濃かった。デーモン小暮(現・デーモン閣下)、とんねるず、藤井郁弥(現・藤井フミヤ)、ウッチャンナンチャン、松任谷由実、そしてビートたけし…。こうしたラインナップを見た新入社員・節丸の感想は「怖い」だった。(次回は9日配信予定)

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